お金は血、財布は拳銃!? 10冊の本で考える「マネーの正体」と上手な付き合い方
資本主義は魔術なのか?
金融システム誕生から5000年、最古のコイン登場から3000年。こんなに時間がたった今でも、私たちは相変わらずお金に振り回される。インフレ、バブル、経済格差。なぜマネーはこんなに人や社会を狂わせるのか。 松岡正剛は『資本主義問題』で、こんなふうに読み解く。 「グローバル資本主義の狂い咲きがいつ始まったのかということなら、日時までわかっている。おそらく変動相場制とともに蓋があき、金融工学の使い過ぎでおかしくなっていった」 そしてその奥では、きっと「金が金を生む錬金術」がニヒルな笑いを浮かべている。 かのゲーテは『ファウスト』第二部で、そのからくりを暴いていた。錬金術師のファウストは、悪魔メフィストフェレスの知恵を借りて(あるいは悪魔にそそのかされて)、神聖ローマ皇帝にある証書へ署名させる。それは、地下に埋まっている金銀の採掘を許可する証書だった。 署名された証書は一晩のうちに何千枚もコピーされて、それ自体が紙幣として帝国に流通していく……。ファウストは「見えない金」をもたらしたのだ。 近代国家による金本位制の紙幣発行システムとそれに続く資本主義の興隆を、錬金術師の魔術と重ね合わせた、ゲーテの慧眼だった。
江戸人だって、お金の悩みは尽きなかった
こんなグローバル資本主義にどっぷりと飲み込まれる以前、近世の日本ではお金に煩わされることがなかったのかと言えば、もちろんそんなことはない。 『浮世絵と芸能で読む江戸の経済』(櫻庭由紀子/著)は、お金をめぐる庶民と幕府のすったもんだを浮世絵や芸能作品から読み解く。 平和な江戸の世で困窮した武士はアルバイトに励んでいたし、かたや儲かっている町人とて、奢侈(しゃし)禁止令で思うように遊べない。 それでも武士がアルバイトで花を育てたことから園芸ブームが巻き起こったり、奢侈禁止令の隙間をぬっておしゃれをするために友禅染の技術が発達したり、政治経済の制約から江戸独自の文化が次々に花開いていった。 『財布でひもとく江戸あんない』(いずみ朔庵/著)では、そんな江戸の暮らしの一端を体験できる。 主人公は、江戸時代にタイムスリップして、長屋に住むことに。1K・風呂なし・トイレ共同で、1カ月の賃料は四百文(8000円)。生活必需品の購入は、ほとんどがツケで盆暮などにまとめて払う。実は貨幣の流通量が少なすぎて、払うべきときに貨幣が手元にないことが多かったからだ。 さらに、幕府が財政難で悪貨を作ったせいで、貨幣が額面通りの価値をもつとも限らない。例えば同じ小判でも、古いものの方が金の含有量が多く価値も高く、後年のものになると価値は下がる。江戸の貨幣経済で生きぬくためには、お金の価値を目利きする力も欠かせなかった。