世界中の両生類を襲う「カエルツボカビ菌」 起源は日本? 朝鮮半島?
カエルツボカビ・アジア起源説
この調査結果によって、日本の野生両生類にも本菌の感染が認められるとともに、本菌に高い遺伝的多様性があることが判明しました。またオオサンショウウオには、遺伝的に特異な系統のカエルツボカビ菌が寄生していること、さらに、今から100年以上前のオオサンショウウオ標本からもカエルツボカビ菌寄生の痕跡が認められることも明らかになりました。 驚いたことにオオサンショウウオの野生集団中における感染率は40%にも及びました。しかし、これだけの高い感染率が示されながら、発症事例は一切確認されませんでした。一方、アマガエルやヌマガエルなどの普通種では、わずかな個体にしか感染が認められず、感染率は1%以下でした。 そしてさらに予想外の結果として、沖縄の固有両生類であるシリケンイモリがもっとも感染率が高く、平均80%も感染していることが示され、カエルツボカビ菌の多様性ももっとも高いことがわかったのです。そしてこのシリケンイモリも菌に感染しながら元気に生きており、発症例が確認されませんでした。 我々研究チームはその後もアメリカやオーストラリアなどから、現地の両生類研究者の協力のもと、カエルツボカビ菌の採集を行うとともに、ヨーロッパやアジア、アフリカなどから報告された本菌の遺伝情報も収集して遺伝解析を進めました。その結果、国内のカエルツボカビ菌のほうが海外産より遺伝的多様性が高いことが示されました。 これらの結果をまとめると、日本はカエルツボカビの遺伝的多様性が非常に高く、さらに日本国内の在来両生類において、本菌による発症事例や大量死は確認されないことから在来種には抵抗性が備わっている可能性が高い、と結論されました。 我々は、この結論から、「カエルツボカビは日本を含む東アジアに起源があり、このエリアに生息するカエルたちはすでに抵抗性を獲得している」とする「カエルツボカビ・アジア起源説」を提唱して、2009年と2010年に国際誌に論文を発表しました。 この論文発表を受けて世界中のカエルツボカビ研究者はにわかにアジアに注目して、我々研究チームにも多方面から共同研究のオファーが舞い込みました。一方、国内では、日本の両生類に対するリスクは低いと結論されるや、潮が引いたように報道も沈静化し、ほとんどの人の関心は薄れ、いつのまにやらカエルツボカビ菌の存在は忘れ去られてしまいました。