【予備電源を確保できないニッポン】なぜ、電力会社は応募しなかったか、AI時代に設備がなくなる可能性
どうなる日本のデータセンター需要
日本のデータセンター用電力需要量は、経済産業省の資料によると22年度で約80億kWhでした。全需要量の0.8%程度のシェアです。 30年の需要量は、2倍以上になるとみられていますが、鶏が先か卵が先かの議論が当然あります。 データセンター、あるいは半導体製造では安定的な電力供給は必須条件です。電力を可能であれば2系統引き込み、万が一に備え自家発電源まで用意します。
安定的な電力供給が見込めなければ、データセンターの建設は進まず、国外で立地されることになります。一方、電力需要が見込めなければ発電設備は作られません。16年の電力市場自由化以降、発電事業者はリスクのある投資を手掛けられなくなっています。 データセンターあるいは半導体製造の効率改善がさらに進むので、需要は増えないとの見方もあります。 たとえば、自民党総裁選の候補者討論会で、石破茂首相は「AIは確かに電力を食う。しかし、新しい半導体の工場は従来の半分の電力でやっていけるという」と述べたと報道されましたが、既に省エネは限度に近づいていると言われています。 米電力研究所の分析ではデータセンターの電力使用効率(PUE-データセンターの全消費電力をIT機器の消費電力で割ったもの。1であれば全ての電気をIT機器が消費していることになります)は、頭打ちになっています。これから省エネでさらに大きく電力消費量が下がるとは考えられません。 データセンターとそれに伴う半導体工場の新設を促すには、まず発電設備と量を増やすことが重要であることは明らかです。 自由化した市場では発電設備の不足による停電の懸念すらあります。どうすれば発電設備を増やすことが可能でしょうか。新たに考え出されたシステムが、「予備電源制度」です。
予備電源制度って何?
市場自由化を受け発電設備を維持するため新たに容量市場が導入されました。これは4年後に必要と想定される発電設備を入札により募集し、落札した発電設備に対し設備容量に応じ一定の金額を支払う制度です。 設備の維持に対し一定の収入があるので設備が維持されそうですが、それだけでは設備が不足する事態も想定されます。たとえば、災害により発電設備が使えなくなる事態、あるいは中長期に需要が増えることが想定される場合です。 そのために新たに予備電源制度が作られました。10万kW以上の火力発電設備を休止状態で維持し、指示があれば一定期間内に立ち上げることが要求されます。設備は入札により選定されます。 同様の制度は、ドイツにおいて既に導入されています。ドイツは再生可能エネルギーの導入を欧州の中でもいち早く進めました。このため火力発電所の利用率が低下し、発電設備の減少が予想されました。 脱石炭火力を進めるドイツ政府は、容量市場を導入すると石炭火力発電所が維持されると懸念し容量市場を導入せずに、「戦略的予備力制度」を導入したと言われています。発電所を休止しておき、必要があれば立ち上げ電力を供給する制度です。 設備が入札で選択され2年間維持されます。2023/24年には、1000kW当たり年間6万2940ユーロ(約1000万円)が合計100万kWを超える8基の火力発電所に支払われました。 再エネの発電比率が高いドイツは、風が吹かず、日照も少ない時の供給に戦略的予備力だけでは不安があると考えたのでしょうか、老朽化し閉鎖された褐炭火力発電所を予備力(スタンバイ火力)として4年間維持しています。燃料の褐炭は発電所の隣で採炭していますので、設備さえ維持しておけばすぐに電力供給を行うことが可能です。 ただ、ドイツは脱炭素のため将来の水素利用を前提としたガス火力発電所の入札制度と新たな容量メカニズムを近々導入予定です。 ドイツの制度を模したような「予備電源制度」でしたが、9月末に締め切られた東日本と西日本において、それぞれ100万kWの電源を募集する入札には応札者がいませんでした。 大きな理由は経済性だろうと言われています。入札金額の対象となる費目は細かく定められ、事業者にとっては設備維持の負担が大きいと思われます。また、いつあるか分からない立ち上げ指示に備え人手不足の中での人員確保も課題です。