樋口恵子 モノを「譲る」つもりでも、相手にとって「押しつけ」になっては困る…。<形見配布委員会発足>のススメ
厚生労働省が公表している「令和4年簡易生命表」によると日本の平均寿命は、男性が約81歳、女性は約87歳だそう。それもあって91歳で評論家として活躍している樋口恵子さんは、「これからはおばあさんだらけの時代になる!」と宣言中。その樋口さん「洋服についてはもともとうまく手放せていたほう」だそうですが――。 【書影】時代のトップランナーとして走るヒグチさんの「ヨタヘロ」と「ときめき」の逸話の数々がここに!『91歳、ヨタヘロ怪走中!』 * * * * * * * ◆私は人一倍片づけが下手 84歳のとき、家を建て替え引っ越しました。以前の家から仮住まいへ、仮住まいから建て直した家へ、都合2回の引っ越しを経験したわけです。 その中で何より大変だったのは、荷物の整理でした。 そもそも私は、子どものころから整理が苦手。小学6年で集団疎開をした先で、級友たちから「あなたの荷物、ちょっと片づけて。みんな困っているのよ」と注意されたことは、今も忘れられません。 あたりを見まわすと、ほかの人はみんな自分のモノをきちんと片づけているのに、私は風呂敷でぱぱっと包んだだけ。それが隣の人のスペースにはみ出していたのです。 「おっしゃる通り、ごめんなさい!」 このとき私は、人一倍片づけが下手なのだということを自覚しました。
◆「譲る」つもりでも、相手にとって「押しつけ」になっては そんな私が80代半ばになって引っ越しをすることになり、同居する娘に「荷物を半分にするように」と宣告されました。 娘から見たら雑物ばかりかもしれませんが、私にとっては一つひとつに思い出もある。それに、人間関係というものは、モノを媒介にして成り立っている場合が結構あります。古いモノをバッサリ捨てるということは、人とのつながりまで捨ててしまうことになる気がして、相当抵抗がありました。 とはいえ、収納スペースには限りがあります。渋々ながらも荷物を減らすことになりました。 片づけるとき、多くの人は洋服の処分に悩むそうですが、私の場合、洋服についてはもともとうまく手放せていたほうだと思います。 70代まではテレビに出ることも多かったので、洋服はとにかく数が必要でした。同じ服を何度も着られないので、当時から親戚や助手、お世話になっている方たちの「譲渡ネットワーク」をつくり、みなさんにお譲りしていたのです。 自分では「譲る」つもりでも、相手にとって「押しつけ」になっては困ります。「よろこんで引き取ります」と言ってくれる人に譲渡会を開き、そのたびに食事会もしながら部活動のように楽しんできました。引っ越しのときにも、このネットワークに助けられました。
【関連記事】
- 樋口恵子 近ごろ目立つ「老いてきょうだい仲の悪さ」。「きょうだい仲よくを味わってもらいたい」と思う親がすべき<つとめ>とは
- 樋口恵子 怪我に病気<不機嫌のタネ>ばかりの高齢期を上機嫌に生きるには…「楽しく」は難しくとも「楽しげに」なら誰でもできる
- 樋口恵子 残り少ない人生なのにみんな友達づきあいや親子関係に悩んでいて…人間関係の問題は<棚上げ方式>であの世にもっていこう
- 樋口恵子「高齢者ひとりでも大丈夫」と思いたいけれど、全然大丈夫じゃないと老いて実感。同居家族がいても「おひとり死」はありうることと心得るべし
- 樋口恵子 ピンピンコロリが理想でも、現実はそう簡単にいかない…ドタリと倒れてから「さてどうやって生き延びるか」こそが大きな課題