樋口恵子 モノを「譲る」つもりでも、相手にとって「押しつけ」になっては困る…。<形見配布委員会発足>のススメ
◆次の人に使ってもらうと考える 問題は、書類や資料など本の整理でした。こちらは手にとると、過去を思い出すからです。 「この本は、出版当初はお金がなくて買えず、先輩に貸してもらっていたけれど、がんばって仕事をしてようやく自分で買えた」とか、「この書類は必死で書いた本のために集めた資料だ」とか、仕事の一場面、一場面が浮かびあがってくるのです。 私にとって本や書類は、まさに人生の一部。それらを捨てるなんて身を引きちぎられるようなつらい気持ちになりました。 しかし、いつまでも捨てられないと引きずっていては、引っ越しができません。発想を転換し、今後だれかのお役に立てるならと、古本屋に買い取ってもらったほか、世界名作全集などは「子どもに読ませたい」という人に譲りました。おかげで心が少し軽くなりました。 とはいえ、減らせたのは全体の4分の1程度。娘に命じられた「半分」にはとても到達しませんでした。 本というのは、何かを調べたいと思ったとき、すぐ開けるよう身近に置いておきたいものです。「これは手放してもいいだろうか?」「手元に残したほうがいいのでは?」などと考えているうちに、体力も気力も消耗していきます。それに、どうしても手放せないものだってある。片づけているうちに疲労困憊し、判断する気力もなくなっていきました。 そういうものに関してはあきらめ、片づけきれなかった本や書類は、「私有物処理費を遺産に上乗せするから、お願い!」と、最終的には娘に任せることにしました。
◆形見配布パーティーを そのほか、自分で思いついて「いいアイディア!」だと思っているのは形見配布委員会を発足したことです。おしゃれは若いときから大好きで、アクセサリーやスカーフなどを集めてきました。 いずれも高価なものではありませんが、石や真珠は本物ですし、海外に行くたびに記念にと買い求めてきたスカーフは、新品がタンスの引き出し三つ分もあります。これらを、お世話になった人に形見分けしたいと考えています。 そのため、親しい人や仕事仲間、年下の親戚たちを形見配布委員に任命。このブローチはこの人に、あのネックレスはあの人に、と分配を考えてもらうことにしました。 ただし、アクセサリーに関しては、すべて合わせると結構な数になります。委員の頭を悩ませるのも悪いので、私が亡くなったあとには食事つきの形見配布パーティーを開いて、それぞれ好きなものを持って帰ってもらいたいと考えています。 形見の品を通じて縁をつないでもらえたら、こんなにうれしいことはありません。そのころ私は天国で、いや地獄かわかりませんけれど、その様子を見ているはず。「そのブローチはあなたより**さんのほうが似合うわよ」なんて注文をつけているかもしれません。 ※本稿は、『91歳、ヨタヘロ怪走中!』(婦人之友社)の一部を再編集したものです。
樋口恵子
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