映画『フェラーリ』はクルマもいいけどファッションも注目!
世界のラグジュアリー人脈に通じ、社交界の裏事情にも詳しい謎の有閑マダム、カトリーヌ10世さんが、日本の男性諸氏が陥っている、ファッションと恋愛の無自覚・無意識の怠慢に覚醒を促し、読者を洗練へと導く連載です。今回のテーマは……。 カトリーヌ10世の「男たちよ目覚めなさい」
■ 「野蛮で優雅なマチスモの引力に目覚めなさい」
フェラーリ。ひとことつぶやくだけで、脳内に薔薇が舞います。あのスーパーカーの官能的な美しさが後ろ姿にあるのは、女性の後ろ姿を本能的にチェックする傾向をもつイタリアン・マチスモが背景にあるからでしょう。 イタリア的な男っぽさのことですが、自信に満ちた態度や野心が間違った方向へ行くと独裁者ムッソリーニを作ってしまいます。しかしそこにエレガンスが加わると、エンツォ・フェラーリを生むのでしょう。「フェラーリ」社の創業者にして、F1界の帝王として君臨したオールドマンです。 マイケル・マン監督の映画『フェラーリ』(公開中)は、そんなエンツォのターニングポイントを描きます。時は1957年、愛息を亡くし、愛人との婚外子認知問題に悩み、業績不振により会社が破産寸前という公私の窮地から、起死回生をかけてイタリア全土1000マイル縦断の公道レース、ミッレミリアに挑むという崖っぷちの59歳。銀髪にしたアダム・ドライバーが熱演します。
イタリアの風景のなかに繰り広げられる緊迫のレースが見ドコロであるのはもちろんですが、メンズファッションの迫力に目を見張ります。1957年は、メンズスーツがもっとも華麗な形でマチスモを表現できた時代。頑丈なツイードのスーツや、淡いグレースーツに差しはさまれるペールイエローのニットベスト、サスペンダー、アイウエアにいたるまで。フィアットの会長、ジャンニ・アニェッリも、シャツカフスの上から時計を着用するという伝説のスタイルでチラッと登場します。
彼らのスタイルは、ジェンダーフリーが浸透する現代人にはともすれば時代遅れに見えるでしょう。しかし、野蛮と紙一重のマチスモを覆い隠す優雅の極みだからこそ抗えない色気というのが確かに存在します。女性の後ろ姿よりも窓に映る自分の髪をチェックする男性が増えた時代だからこそ、マチスモが秘める力の可能性に、ほんの少しだけ「目覚めてもよい」かも。 あ、LEON読者のみなさまには釈迦に説法でしたでしょうか。
● カトリーヌ10世
グローバル化が進む社交界事情にも通じる。密かな趣味は人間観察とコスプレ。好きな飲み物はモンラッシェ。日本ではほとんど知られていない、ある小国の女王とのウワサも!? 2024年7月号よ
文/カトリーヌ10世 イラスト/ユリコフ・カワヒロ