旧来の認知症介護とどう違う? 世界初の認知症村「ホーヘベイ」が注目される理由とは
認知症患者の攻撃性が緩和、抗精神病薬を処方される入居者が5割から1割に
現在、認知症患者の数は世界全体で5700万人と推定されている。それが2050年には1億5300万人まで増加し、医療費と介護費は約2450兆円に達すると予測されている。 ギャラリー:超高齢社会 日本が切り開く未来 認知症患者のために優先されるべきことは、より人道的なケアだ。患者を支えている多くの人々が、そう痛感している。認知症を死と関連づけるのではなく、そこからどう「豊かに生きるか」が大事だと語るのはエルロイ・ジェスパーセン。北米初の大規模な「認知症村」であるカナダの「ビレッジ・ラングレー」の共同創設者だ。 ジェスパーセンが自分のやりたいことをはっきりと悟ったのは、オランダにある世界初の認知症村「ホーヘベイ」を紹介するプレゼンテーションを見た後のことだ。 ホーヘベイの敷地の中心部には噴水があり、パブや劇場もあって、オランダの小さな町のような雰囲気に設計されている。入居者は料理や洗濯を手伝うことで、自立している感覚や目的をもつことができる。そうした自由度の高さが入居者にとって極めて大切なのだとジェスパーセンは話す。 認知症ケアの先駆者たちは、積極的に知識の共有に努めている。ホーヘベイには、2008年のオープン以来、建築家や臨床医、介護事業者、認知症患者の家族など、数百人の見学者が訪れた。今や同様の認知症村はフランスやイタリア、オーストラリア、ニュージーランド、ノルウェーにもある。 この施設の魅力的な特徴の一つは、自主性を育む方針だ。それが認知症患者の攻撃性を和らげているのだろう。村の概念を導入して以来、抗精神病薬の処方を受ける入居者が5割から1割ほどに減ったと、ホーヘベイの創設者の一人であるイロイ・バン・ハルは話す。「普通の日常生活を忙しく送っていれば活動的になります。それが入居者の気分に大きな効果をもたらすのです」 高齢者の住まいを設計する建築家のジェニファー・ソドも、ホーヘベイを見学したことがある。ソドは認知症だった祖母のベティを通じて教訓を学んだ。ソドの母親は祖母を高齢者施設に入れ、その後、認知症介護施設に移したが、そのことに強い罪悪感を抱いていたという。 ソドはこの母親の思いがずっと忘れられなかった。祖母は家族をとても大切にし、ケーキを焼くのが大好きな人だったが、施設では屋内で一人で過ごしていることが多かった。ソドは祖母を訪ね、屋外へ連れ出したときのことを覚えている。 「祖母の中で何かが目覚めました。太陽の暖かさに触れ、花が揺れたり、チョウが舞ったりするのを見ることができたのです」と33歳のソドは話す。「全体的な設計で目指すべきなのは、あのちょっとした瞬間なのです」
文゠クローディア・カルブ(ジャーナリスト)