過去の“未成年飲酒”疑惑でCMお蔵入りに、本人否定もなぜ? 元大手広告マン「本当に清廉潔白な世界は実現しない」
■過去の“掘り返し”のラインは?キャンセルカルチャーの是非
河崎氏は、時代背景の観点から今回の事案を考える。「15年前の社会的風潮では、18歳で入学した大学生が、そのまま飲み会に行くことがまかり通っていた。当時のモラルと照らし合わせると問題なかったからと、意識していなかったのではないか」。 西山氏によると、最近の広告炎上トレンドとして、過去の不祥事・発言が蒸し返されがちなことがある。企業がタレントの発信をチェックしきれていない可能性があるほか、“アンチ”が過去を掘り返して攻撃するケースもある。また、疑惑段階でも降板させがちなのも昨今の特徴だ。企業へのバッシングやキャンセルカルチャーがより強くなり、企業側が過敏になっている面もある。 その上で「本来は『あまり過去のことは問うべきでない』というのが大原則」だと指摘する。「ログが残り、過去のことが蒸し返されやすくなり、良いか悪いかは別として窮屈な時代になった。批判されたら下ろすのではなく、基準ははっきりさせたほうがいい。ただ、時代によって基準は変わるため、不適切だと思った情報は発信しないことが重要だ」。
企業は簡単に取り下げすぎなのか。西山氏は「法律違反・差別・ジェンダーに関する発言などはアウト」とした上で、賛否が分かれるものも「なんでも取り下げ」とするのは好ましくない面もあるとする。「あの大企業がそう判断した」とタレントイメージ・人格を傷つけるおそれから、「だったら最初から起用するな」という批判も出る可能性があり、企業側にも「取り下げるリスク」がある。 そうした背景を鑑みながら、今回のケースは「本当に未成年飲酒がけしからんという気持ちから炎上したのかは疑問だ」と投げかける。「ネット上で調べて、批判を楽しむ人たちの調査能力は高い。集合知としてネガティブなパワーが結集し、引きずり下ろそうとする。私は“アンチの批判は気にしないで”と伝えてきたが、そもそもアンチはそのCMの商品を買わない。タレントのアンチであり、商品のアンチではないからだ。一方で、SNSの発信力が高いタレントにはその投稿も契約条件に入れている。プラスとマイナスの両面でレバレッジがかかっている状況だ」。 河崎氏は「ファンがキャンセルできるという成功体験となっている。『私たちの力を見よ』みたいに、過去をほじくって、“魚拓”を取ってさらして、引きずり下ろすのが“文法”になると困る」との懸念を示す。 一方で、西山氏は「降板になったタレントをうまく使う例もある」と語る。「文化や表現は、常にギリギリのラインを攻める。本当に清廉潔白な世界はなく、どこかに毒がある。炎上しても面白いCMを出して、業績が好調な企業もあり、過剰にコンプライアンスやキャンセルカルチャーを受け入れる必要はない」。(『ABEMA Prime』より)