中国 反スパイ法強化で精巧さ増す「監視」――増えた「取材先への圧力」 外国企業の萎縮…“飛脚”作戦も
2023年に中国で施行された「改正反スパイ法」。何が狙われるかわからない不気味さに、各国の企業も対応に苦慮している。監視強化は、外国メディアにも。当局に先回りされ、取材先に圧力がかかることも増えた。監視の目は、その威力を増している。 (NNN中国総局 森葉月) 【解説】中国で写真を撮ったら“スパイ”に?「反スパイ法」拡大に警戒 アプリ、古本屋…注意すべきポイント
■“監視”能力の向上を実感…なぜ当局が先回り?
23年8月、私は連日、取材に追われていた。東京電力福島第一原発の処理水放出が始まり、中国が日本の水産品の輸入を禁止。その中国での影響などを取材していた。しかしその過程で、奇妙な現象が起きていた。取材先から突然、取材を断られるケースが続くようになったのだ。それも、電話で取材の許可をもらった直後に…。 ある日の取材先はショッピングモールに入る店舗だったが、モール側から「許可無く取材を受けないでください」などと制止されたという。その店舗は事前にモール側に取材のことは話しておらず、モール側がどこから取材の約束を聞きつけたのかは不明だ。通話が聞かれていたのか? でも当時、私は日本語で会話していたのに、なぜ…。背筋が寒くなった。 中国当局が先回りする形で、取材先に圧力をかけたとみられる。処理水関連の取材は“機微に触れる”とし、マークしたのだろうか。私は取材先の安全を考えて、見送ることにした。 中国当局がマークを強めた時期は、処理水問題とは別の時にもあった。23年10月末、李克強前首相が突然、死去した際だ。
この時も、亡くなった当日に私たちのもとに当局の関係者から電話があった。「どんな報道をするつもりか」などと聞いてきた。習近平国家主席とは距離があったとされる李氏への追悼の動きが、政権批判につながることを当局が警戒していたのは間違いない。 また私は、李氏が北京郊外の墓地に埋葬される際にも墓地近くで取材していたが、沿道に集まった市民の中で「英雄よー!」と大声で泣き叫んだ高齢女性が、当局に押さえつけられ、連行される場面を目撃した。私自身も沿道の列にまぎれ、当局の目にとまらないようにすることに苦心した。