中国 反スパイ法強化で精巧さ増す「監視」――増えた「取材先への圧力」 外国企業の萎縮…“飛脚”作戦も
■反スパイ法強化…「記者も油断できない」
国際的なジャーナリスト組織「国境なき記者団」が23年に発表した、“報道の自由度ランキング”。180の国と地域の中で、中国は北朝鮮に続きワースト2位になった。とりわけ外国メディアの記者たちが警戒しているのは、23年7月に施行された「改正反スパイ法」だ。 ある欧米メディアの記者は「改正反スパイ法の実績とするため、研究者や教授といった専門職以外を拘束する事態も十分にあるのでは。外国の記者だからといって油断はできない」と、取材の難しさが増すことを覚悟していた。
■対応に追われる外国企業…社員自ら“飛脚”に 部署名から外したワードも…
23年12月、中国の国家安全部は公式SNSで、こう表明した。 「安全は、安定したビジネス環境を維持する基盤である」 「改正反スパイ法」を背景に外国企業が中国から逃げ出している、との見方に反論するための投稿だ。 日本人男性らが相次いで中国当局に拘束された影響などもあり、日系企業では、中国事業の縮小や撤退など“中国離れ”が進んでいる。こうした中、日系のコンサルティング会社が現地企業を対象に、反スパイ法への対策セミナーを開いていると聞き、行ってみた。 説明会では、過去に欧米企業が反スパイ法に問われた実例を紹介。例えば、ある企業は中国西部の新疆ウイグル自治区に関するデータをリサーチしていて、罪に問われた。中国当局は理由について「犯罪という形で、中国企業のデータを収集した」と説明したというが、実際は、人権問題が指摘されている新疆ウイグルに関わったこと自体が、問題視されたとみられるという。この企業は、業務停止処分は免れたが、発注は激減し、厳しい状況に追いこまれているという。 日系企業に話を聞くと、さまざまな対策を講じていた。例えば、会社の機密情報が含まれるデータなどはメールでやり取りせず「飛脚方式」、つまり社員自らが日本に持ち帰るなど、安全管理を徹底しているという。 また外国企業の間では、部署名や役職から「調査」や「研究」という言葉を避けようという動きも出ているという。機密情報の取り扱いを連想させ、狙い撃ちされるのを避けるためだ。
■スマホ操作まで筒抜けに!? 環境ますます厳しく…
23年、新疆ウイグル自治区に住むある男性は、自身のスマホ内に新しいアプリを入れた直後、当局から警告を受けたという。スマホ内の細かい操作まで全て、当局に筒抜けになっている可能性を示している。 中国では24年1月から「愛国主義教育法」が施行される。立法化は初めてのことだ。学校や家庭で、習主席の思想や共産党の歴史などを教育し、共産党の一党支配を徹底する狙いだ。また反スパイ法の強化を受けて、中国当局もSNSなどで市民に「外国スパイの通報」を繰り返し呼びかけている。 24年もますます取材環境は厳しくなりそうだ。