ヤマザキマリ 飛行機は遅延が当たり前、コンビニやデパートからはテキパキした手技や速度が失われ…ブレのない機敏さが誇りだった日本を懐かしむ日が来るとは思ってもいなかった
日本にいる時間が増えた結果”国内”カルチャーショックに陥ったというマリさん。たとえば、かつての日本と言えばイタリアと真逆の<時間に正確な国>というイメージでしたが、実際には――。(文・写真=ヤマザキマリ) 【写真】マリさん撮影、海面に映る飛行機の影 * * * * * * * ◆縦軸カルチャーショック コロナ禍以降、日本にいる時間が増えた私は、ちょっとした“国内”カルチャーショックに陥っている。空間を横軸で見て比較したカルチャーショックではなく、今と昔の日本を比べての、縦軸的違和感とでもいうべきか。 時間にルーズな国と聞いて皆が思い浮かべてしまうのがイタリアだが、乗り物の出発・到着の時刻は、まさにそれを象徴するものだった。 私が暮らしていた頃のイタリアのバス停には、そもそも時刻表がなかった。だから、自分が乗りたいバスがいつ来るのかは勘を働かせるしかない。 今でこそ電光掲示板に到着までの残り時間が表示されるようになったが、それも場合によっては適当だったり壊れていたりする。 列車においては、数十分どころか数時間の遅れは当たり前。国境をまたぐ国際列車ともなれば、遅延時間がダイナミックに10時間を超えることもある。 ハイテクな高速列車が行き交うようになった今でも、数時間の遅れは健在だ。
◆日本は<時間に正確な国>と思われ続けているが… 日本ではさすがに列車の遅れは滅多にないし、海外の報道でもいまだに日本の列車の発着時間の確かさと、新幹線のずれない停止位置がネタにされることがある。 日本といえば、イタリアとは逆に時間に正確な国と思われ続けているけれど、若干変化が見えるようになってきた。 先日も空港で、国内線が遅れて到着したので国際線に乗り継ぎができなくなったと、地上係員に文句をぶつけている外国人を見かけたが、確かにここ最近、私が日本国内で乗った飛行機で、定時に発着した便はない。 駐機場が混雑しているという理由で、上空で旋回待機させられるか、滑走路に着陸してもそこでしばらく待たされる、ということも当たり前となった。 8月に訪れた北海道の新千歳空港では、出発待合室内の店舗ではさみが紛失したとかで、いったん保安検査場を通過した人たちの再検査をしたために大混乱が発生し、自分が乗っていた便も含め、何機もの飛行機が滑走路上で延々と待たされた。 今では私は遅延を見込んで、2本ほど早い便に乗るようになった。移動に予定調和を求めてはならないというこの感覚は、欧州や中東に暮らしていたときと変わらない。
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