もしも認知症介護中に、殺意を感じてしまったら?
最終回は、認知症介護をしている介護者ご自身にフォーカスします。私が3年間、認知症介護をしながら常に考えていたことは、どうやったらラクに介護ができるだろうか? ということでした。 「認知症介護の現実はそんなに甘くないし、簡単なものじゃないよ」 いまだに、よく言われます。わたしもそう理解し、ラクなんてできない! と当初は思っていました。一方で「なんとかなるさ!」と前向きに考え、実践している認知症介護者もいらっしゃいました。そういった認知症介護者から多くを学びたいし、自分もそうありたいと思いながら、今も遠距離介護を続けています。 認知症介護による殺人事件や自殺。多くのメディアが扱う認知症介護は、どうしても「壮絶」でネガティブなものが多くなってしまいます。そういった情報に多く触れていると、介護者自身も同じようにネガティブになります。その状態で認知症の症状と向き合うと、どう対応したらいいか分からなくなります。そんなとき、ある法則を聞いて、とても気持ちがラクになりました。
認知症介護者が必ずたどる「4つの心理的ステップ」とは?
認知症に軽度、中度といったレベルがあるように、介護者にも同様にたどる道がある。川崎幸クリニック院長・杉山孝博先生は「介護家族のたどる4つの心理的ステップ」と言っています。 第1ステップ:とまどい・否定 第2ステップ:混乱・怒り・拒絶 第3ステップ:割り切り・あきらめ 第4ステップ:人間的、人格的理解 認知症にとまどい、認めたくない。言っても聞いてくれないから怒り、しまいには介護放棄してしまう。多くの介護者は第1・第2ステップで多くのパワーを費やし、疲れ切ってしまいます。私は、そういった誰もが経験する最初のステップを介護が始まる前に理解し、早めに割り切れるようにしようと考えました。 「ひとり暮らしで、こんなにジャムいらないだろ(写真)」 「何回同じこと言うんだよ、しつこい!」 とまどいも否定も、もちろんありました。単なる年相応の物忘れで、認知症なんかじゃないって思いました。でも、このステップを知っていたおかげで、介護者として今どこにいるのか理解できました。4つの心理的ステップはわたしの気持ちをラクにし、多くのパワーを費やすこともありませんでした。 もうひとつ先のステップに進めた理由は、子宮頸がんで入院していた認知症の祖母(要介護3・90歳)のおかげでした。余命半年と宣告された祖母に対して、第2ステップの怒りや拒絶という気持ちはまったく起きませんでした。残り半年の命、病院を家と間違う祖母に、「ここは病院でしょ!」と怒り、説得する気にはなれませんでした。 「裏の畑に、今年は何植えようかね?」 自然とこのコトバが出てきました。最初から第3ステップ、第4ステップで介護ができたのです。これがあきらめや人間的理解なのか……。介護を始めて半年かからず体感できたことが、いまの母への対応にも生かされています。