映画の美は彼らの手で作られた…映画史に名を残す画期的な世界の名カメラマンたち
映画における撮影監督の役割は重要だ。近年はVFXで魔法のような映像を作り上げることが可能だが、それも先人達の創意工夫と試行錯誤の上に成り立っている。ハリウッド黄金期における、撮影技術の革新と発展に貢献した人物と作品に焦点を当てた「世界の名カメラマン大全」古澤利夫:著(ビジネス社刊)は、巨匠と呼ばれる監督たちとタッグを組み、独自の映像美を追求した撮影監督たちの功績を紐解く、永久保存版ともいえる432頁に及ぶ大型本だ。 無声映画からトーキー、そしてカラーへと移り変わる中で、映画撮影の技術革新は分業化と専門化が進んでいった。撮影のメカニカルな部分は専門のカメラマンが担当するようになり、ハリウッドでは撮影監督が照明技師も兼任するようになっていった。撮影監督は監督やプロデューサーと技術面を協議し、企画に合うフィルムや現像所を選定するなど、重要な役割を担うようになる。そうした流れから撮影監督やカメラマンは単なる技術者ではなく、映画のビジュアルスタイルを決定づける重要な役割を果たすようになり、彼らがいかに映画史における映画そのもののクオリティーを向上させていったのかが本書を通じて理解が深まる。
本書には映画史に名を刻んだカメラマンたちの詳細なフィルモグラフィーとその功績が網羅されている。例えば、"映画の父"と呼ばれるD・W・グリフィの黄金時代を支えたG・W・ビッツァーについての章では、彼が手掛けた『国民の創生』(1915年)や『イントレランス』(1916年)などの名作における独創的なカメラワークが詳述されている。これらの作品におけるクローズアップやクロスカッティングといった技法が、いかにして映画表現の基礎を築いたかが具体的に解説されていて非常に興味深い。
また、アカデミー賞に輝く作品を多く手掛けた「色彩撮影の神様」と称され『クレオパトラ』(1963年)でアカデミー賞を受賞したレオン・シャムロイや、1970年代には米映画界最高のカメラマンと謳わた『ベン・ハー』(1959年)などでアカデミー賞を受賞したロバート・サーティースのような名匠たちの技術と美学が紹介されており、彼らがいかにして映画の視覚表現を進化させたのかがわかる。映画がどのように作られるのか、その裏側を知ることは映画ファンにとっては大きな喜びだ。本書は、映画の美しい映像の裏側に隠されたカメラマンたちの努力と創意工夫を讃える一冊であり、映画の新たな一面を知る機会を提供してくれるだろう。(編集部:下村麻美)
画像:Twentieth Century-Fox Film Corporation / Photofest / Getty images