仕込み水に自信あり 福井の隠れた銘酒を掘り起こす
福井県は古くから「越山若水(えつざんじゃくすい)」と呼ばれてきた。県北東部の越前には青々とした山が連なり、県南西部の若狭には清らかな海がある、という美しい自然を表現した言葉だ。当然、そこで育まれた山の幸や海の幸も豊かなのだが、あまりにも豊かなために、隠れて目立たなくなってしまった食材も少なくない。おいしい地酒もその一つで、黒龍や梵、そして一本義という3つの酒蔵の知名度が高すぎて、ほかに30ある同県内の蔵元とその銘酒の存在が埋もれているかもしれない。
仕込み水に絶対の自信あり
日本全国どこにでも地酒はあるが、福井の地酒は水が違うのだと、蔵元はみな口をそろえて言う。7月に都内で開かれた利き酒商談会で、福井県酒造組合会長の南部隆保さんは「いい酒米は全国のどこにでも流通しますが、土地の水は流通できません。水の良さは酒の良さであり、海寄りか山寄りかで味わいの違いがあります」と福井の水と酒の良さを強調した。「酒の原材料として米と麹(こうじ)が書かれていますが、水は書かれていません。しかし、地酒の味わいが変わってくる重要なポイントです」と、その品質に絶対の自信を見せた。 県北東部の白山水系から流れ込む仕込み水は、旨味と切れを生み出す。越前・大野市の水は特に豊かでおいしいことで有名で、湧水池が市内の各所にある。なかでも「お清水(しょうず)」は名水百選に選ばれている。若狭にある蔵元は、奈良東大寺二月堂のお水取りに使われる「若狭井」にゆかりを持つ水源を用いる。海と湖、そして山に挟まれた場所で、水の量こそ少ないが、ミネラルを多く含み、酒の発酵を促す力が強い。
福井には美味しい酒が多すぎる
「福井には美味しい酒が多すぎるのですよ」。東京・神楽坂の福井料理店「九頭龍蕎麦 はなれ」を経営する原崎衛さんは、そう言って笑みを浮かべた。「今回、お出しするお酒は、黒龍、梵、一本義という銘酒ビッグ3をあえてはずしてみました」と、福井の地酒の瓶をずらりと並べて見せてくれる。 同酒造組合に加入している蔵元は33あり、「九頭龍蕎麦 はなれ」は、うち25の蔵と付き合いがある。季節限定ものも合わせると年間を通じて約70銘柄を扱う。「福井にはこれだけの酒があるのだということを、店を通じて知ってもらいたいわけです。地の酒には地の料理が当然合いますよね」と5品を用意していただいた。