仕込み水に自信あり 福井の隠れた銘酒を掘り起こす
地元の漁師が鍛えた「早瀬浦 純米」
3品目は「甘鯛のはさみ焼き」。ここで言う甘鯛は、若狭沖で獲れた「ぐじ」のことで、和食の最高級食材だ。和泉村の昇竜舞茸、勝山市の山うどの塩漬けを「ぐじ」で挟んでいる。そして、その上に鱗に見立てたアーモンドのスライスを散らす。若狭の魚には若狭の酒で合わせる。三宅彦右衛門酒造(美浜町)の「早瀬浦 純米」がそれ。早瀬浦のあと味が切れる感じと舞茸の香り、「ぐじ」の柔らかい身が良く合う。「土地の漁師が認めた酒だけある」と評判も高い。 同酒造は1718年の創業。山を切り開き、井戸を掘って水を確保した。蔵の下には、玉石を敷き詰めて沢から水が集まるような工夫がしてあるのだという。専務の三宅範彦さんは「地の料理と酒は、よく合うはずですよ。合うように、地元の人に鍛えられてきたわけですから。おいしいからこそ、今でも生きているわけですよ」。はさみ焼きと早瀬浦を口にしていると、海と山に挟まれた美浜の美しい景色が目に浮かんでくるようだ。
ワインにも似た酸味「福千歳 純米吟醸 徳」
海の幸と言えば、越前汐雲丹(しおうに)を忘れてはいけない。間違いなく珍味のなかの珍味で、甘い塩味と磯の香りでねっとりと練り上げられた雲丹の濃厚な味わいはくせになる。そんな汐雲丹を煮切り酒と卵黄で伸ばして、ガサエビ、赤イカとあえた一品に合う酒はどれか。 原崎さんが出してくれたのは、田嶋酒造(福井市)の「福千歳 純米吟醸 徳」だった。自然に乳酸菌を取り込む山廃仕込み。しっかりとしながらも、華やかでフルーティーな香りが広がる。「雲丹の味が強いので、しっかりした酒と合わせて食べると綺麗にまとまります」というのが、この酒を選んだ原崎さんの意図だ。 同酒造の杜氏・田嶋雄二郎さんは、こう説明する。「酸味はワインに近いと思います。しっかりとした料理に合わせるお酒で、肉料理にでも合いますよ」。この地酒の酒米は「越の雫」を使う。福井県でしか使えない酒米だ。五百万石がすっきりとした味わいに向いているのに対し、「越の雫」は味わいがある酒に仕上がるという。「うちは1849年の創業ですが、福井市内の足羽山のふもとに良い水があると、60年前に今の清水町から移ってきた蔵です」と水の良さを強調した。田嶋酒造の地酒は、3年前まで兵庫県産の酒米「山田錦」を使っていたこともあったが、「自分の作りたい味とは違った」と、今はすべて福井県産の酒米を使う。