史上最高額《サルバトール・ムンディ》が一般公開か。所有者のサウジアラビア皇太子が計画
レオナルド・ダ・ヴィンチ作とされる《サルバトール・ムンディ》は、2017年のクリスティーズのオークションで史上最高額となる4億5000万ドル(当時の価格で510億円)で落札され、アート界を震撼させた。落札者は、サウジアラビアの皇太子、ムハンマド・ビン・サルマン(MBS)だ。 落札以来、公に姿を見せていない《サルバトール・ムンディ》は、何年もの間、MBSのヨットや宮殿に飾られていると噂されてきた。しかし、MBSの友人で、プリンストン大学で中近東を研究するバーナード・ヘイケル教授がBBCに語ったところによると、この絵画は現在スイス・ジュネーブの倉庫に保管されており、将来的にはサウジアラビアの首都リヤドに建設される美術館で一般公開する予定だという。過去、MBSはヘイケルに、「リヤドにとても大きな美術館を作りたい。ルーブル美術館の《モナリザ》のような、人々が魅了されるアンカーオブジェがほしい」と語ったという。 BBCは、MBSによる《サルバトール・ムンディ》の購入について、「彼が皇太子として統治する宗教的に保守的なサウジアラビア社会の境界を恐れず押し広げ、リスクテイカーであろうとする意欲を物語っている。そして何よりも、目立つ権力の誇示で西側諸国を出し抜こうと決意している」と伝えている。 こうしたMBSの野心はアートにとどまらず、スポーツにも及んでいる。彼は2034年のFIFAワールドカップの招致をはじめ、数百万ドル規模のテニスやゴルフトーナメントなど、世界的なスポーツイベントに多額の投資を行っている。だがそれを、自分とサウジアラビアを偉大にするための「スポーツウォッシング 」だと批判する人もいる。また、ワシントン・ポスト紙への寄稿などを通じてMBSの改革を激しく批判していたサウジアラビア人記者ジャマル・カショギが、トルコ・イスタンブールのサウジ総領事館で殺害された事件への関与の疑いなど、MBSをめぐってはさまざまな疑惑も飛び交っている。 《サルバトール・ムンディ》もダ・ヴィンチ作ではないのではないかという疑惑は拭えず、美術界で激しい議論の対象となってきた。専門家の中には、この絵のスタイルがダ・ヴィンチの既知の作品、特に人物のプロポーションや顔の特徴と一致していないと主張する人もおり、スペイン・マドリードのプラド美術館は、2021年に同作を工房作と判断している。
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