小島慶子「仕事と育児と家事だけの人生になってる」と思ってしまったら
かつて、子どもたちが言うことを聞かないときや、やってもやっても家事が終わらないときに、人生そのものから逃げ出したくなったことが何度もありました。あの時に、もしこの「息が吸えて吐けるってありがたい。まずは今無理なくできることを」という発想法を知っていたら、もうちょっと楽だったろうなと思います。 たぶん子育ては、自分の人生も、まして他人(わが子も配偶者も他人です)のことも、決して思い通りにはできないし、するべきでもないということを体得するための長いトレーニングなのでしょう。完璧な筋書きを目指すのではなく、今この瞬間の生に感謝することの積み重ねなのですね。 人生は、片付けては散らかし、片付けては散らかしの繰り返しです。何かが落ち着いたと思った途端に別の事件が発生。手も気も休まる暇がありません。だから、まあ大体平均して6割ぐらい、日によっては3割ぐらいの出来でよし。より簡単にできることからやればいいのです。 あの片付け女王のこんまりさんですら、子育てを始めたら完璧に片付けるのは無理だと痛感し、「子どもたちが元気で、自分は歯磨きさえできていたらOK」というところまでハードルを下げたと語って、全世界を震撼させました。彼女の言葉で何億人が救われたことでしょう。状況に応じて物事の優先順位を思い切って変えるのも、とっ散らかった人生を整理するコツなのですね。 手を抜いてはいけない、すべては子どもの将来のため、と思ったときは黄色信号です。吸って吐いてをやってみて。子どもは、「まだ大きくなっていない人」ではなくて、「今日も大きくなった人」。明日のために今日があるのではなく、今を楽しく生きられるように。 その積み重ねが、子どもに安心感を与えます。安心感って、大人になってからはなかなか取り戻せない一生の財産なんです。今日はなんだか気持ちに余裕がないなーという日には、親子で歯を磨いて、それでよしとしましょう! 【PROFILE】小島慶子 こじまけいこ・1972年オーストラリア生まれ。学習院大学法学部政治学科卒業後、TBSに入社。アナウンサーとしてテレビ・ラジオ等で活躍。1999年にギャラクシー賞DJパーソナリティ部門賞を受賞。2010年にTBSを退社し独立。現在はエッセイスト、タレントとして活躍中。 2014年に家族でオーストラリア・パースに教育移住。自身は日本で働きながらオーストラリアとの間を往来している。著書に『絵になる子育てなんかない』(幻冬舎/養老孟司との共著)、『大黒柱マザー』(双葉社)、『おっさん社会が生きづらい』(PHP新書)ほか。東京大学大学院情報学環客員研究員。