なぜ室屋義秀は母国千葉でのエアレースでV3を逃したのか?
空中のF1と称されるレッドブル・エアレースの千葉大会の決勝ラウンドが27日、千葉の幕張海浜公園の特設コースで行われ、地元での3連覇を狙う室屋義秀(45)が、最初の「ラウンドオブ14」で、まさかのオーバーGの反則を犯し失格敗退(DNF)するアクシデントがあった。昨年度の年間チャンピオンの室屋がはまった罠とは何だったのか。なお優勝は、その初戦のマッチアップで室屋を下したマット・ホール(46、豪州)で、カンヌ大会に続く連覇を飾った。シリーズの総合ランキングでは、マット・ホールが36ポイントでトップ、室屋は19ポイントで3位につけている。シリーズは全8戦あり、次戦は6月23、24日にブダペストで行われる。
ぎっしりと埋まった幕張の海岸が一瞬静まり返った。室屋が通称「幕張ターン」と呼ばれる最初のバーティカルターン(垂直ターン)でオーバーGの反則を犯してしまい、完走することなく、途中でのレース離脱を余儀なくされてしまったのだ。 今シーズンからオーバーGの上限が「10」から「12」に引き上げられていたのだが、そのリミットをオーバーしてしまったのである。千葉で3連覇を狙う昨年の年間チャンピオンである室屋がホームグラウンドで、まさかの自滅を犯した理由はふたつある。 ひとつはマッチアップの相手、マット・ホールからかけられたプレッシャーだ。 14人のパイロットが争う決勝ラウンド初戦「ラウンドオブ14」の組み合わせは予選タイムによって決まる。室屋は予選タイム3位だったが、カンヌ覇者のマット・ホールが12位と出遅れたため事実上の決勝戦とも言えるマッチアップとなってしまったのである。先にフライトしたマット・ホールは、見事に予選の教訓を生かして、55秒529の好タイムを叩き出した。これは、この日の「ラウンドオブ14」の最高タイムだ。 室屋の回想。 「コックピットへ入る前にマット・ホールのタイムが見えた。想定より1秒くらい早かった。これに追いつくためには、そうとう攻め込んでいく必要があり、目一杯いった。コンディションが良くて機体もいい。楽しくなってきた、面白くなってきたな、と思いながらスタートしたんです」 「ラウンドオブ14」では、例えマッチアップの相手に敗れても、タイムが7人の敗者のうちトップならば、敗者復活枠がもらえて「ラウンドオブ8」へ進める。 だが、室屋は「それを狙う気持ちはなかった」という。 勝ちに行ったのだ。 加えて、もうひとつ機体の問題もあった。 室屋は、千葉大会を前に垂直尾翼を小型に変更するという改造を機体に加えた。さらなるスピードの追求である。だが、フリープラクティスでのフライトで問題が起きていた。「小型の垂直尾翼ではコンディションが荒れた場合にはコントロールが難しいんです」。強風が幕張の名物である。その風を計算した場合、速さを求めるより、安定を求めたほうが「ファイナル4」へ進む確率は高まる。 室屋は決勝では以前のオリジナルの垂直尾翼に戻す決断をした。だが、この日、予想した強風は吹かなかった。小型にした新・垂直尾翼でフライトを繰り返してきた室屋にとって、感覚をまた元に戻すのは簡単ではなく、そこにマット・ホールのプレッシャーが重なり、機体のコントロールを失ったのだ。 つくづくこの究極のモーターレースがメンタルに左右される神経ゲームであることがよくわかる。