〈解説〉アフリカゾウは「名前」を使うと判明、オウムやイルカとは大きな違いも
「呼びかけは個々の受け手に特有」
分析にあたり研究チームは、ケニアのサンブル国立保護区とバッファロー・スプリングス国立保護区で2019年から2022年にかけて録音されたものと、1980年代、1990年代、2000年代にアンボセリ国立公園で録音されたアーカイブ音源の両方を利用した。アンボセリの録音を手がけたのは、同研究の共著者であり、ナショナル ジオグラフィックのエクスプローラー(探求者)でもあるプール氏だ。 全体として、チームは101頭のアフリカゾウが、117頭の受け手側個体に向かって発した496回分の呼びかけのデータを分析した。 科学者らが特に焦点を当てたのは、姿が見えていない親族と接触を開始するとき、触れ合える距離にいるほかの個体に近づくとき、子育てをするときにゾウたちが使用する接触、挨拶、世話のゴロゴロ音だ。こうした音には名前が含まれている可能性が高いと研究者らは見込んでいた。 ゾウたちは、トランペットのような鳴き声や吠えるような声からゴロゴロ音まで、さまざまな声を発する。彼らの声の構造は複雑だ。 たとえば、ゴロゴロというのは低周波の音で、その一部は人間の可聴域外にあり、さまざまに変動するだけでなく、地面を通して伝わり、0.5秒から12秒にわたって継続する。そこには多くの情報が含まれており、その解釈も難しい。 「われわれのデータが示唆しているのは、人間の場合と異なり、ゾウの名前はさまざまな声のごく一部しか占めていないということです」と、研究リーダーで、米コロラド州立大学の博士研究員ミッキー・パルド氏は言う。 「ゾウはあるいは、単一の発声に多くの情報を詰め込んでいるため、名前は複雑な信号の一部でしかなく、ほかの情報も同時に伝えているのかもしれません」 呼びかけの中に名前がどのように記号化されているのかはまだわかっていないが、研究は名前がそこに存在することを示唆している。データをコンピュータアルゴリズムに入力したところ、同じ発声個体から同じ受け手個体に向けられた複数の呼びかけは、同じ発声個体から別の受け手個体に向けられた呼びかけよりも似通っていることがわかった。 つまり、フリーダという名前のゾウから女家長のドナテラに向けられた複数の呼びかけの音の構造は、フリーダが彼女のいとこのロスコなど、そのほかのゾウに向けた呼びかけよりも似通っていた、ということだ。 これが「示唆しているのは、呼びかけは実際に、対象となる個々の受け手に特有だ、ということです」とパルド氏は言う。