香港デモはなぜここまで長期化したのか? 立教大学准教授・倉田徹
9月28日に始まった民主化を求める香港の市街地占拠デモは、発生から1か月半以上の長期に及んでいます。 【図表】中国と香港「一国二制度」は今どうなっているの? 元々この市街地占拠の抗議活動は、香港大学の学者らが計画し、10月1日に実行され、静かに道路に座り込んで無抵抗で警察に逮捕され、長くても数日のうちに収束すると想定されていました。しかし実際には、9月22日以来の学生の抗議活動が巨大化したことに合わせて占拠が開始され、警察がこれに催涙弾で応じたことで怒った市民が多数参加して人数が膨れあがり、収拾不能の膠着状態に陥りました。途中からデモ隊はテントで「住宅団地」を作り、学生の自習室やシャワー室、関羽をまつる廟やキリスト教会まで路上に設置して、座り込みというより住み込んでいます。このデモはなぜこれほどの長きにわたって続いているのでしょうか。
■主張の隔たり
長期化の第一の原因は、デモの主力である学生の主張と、北京の中央政府・香港政府の主張があまりに隔たっており、双方が妥協できないことです。学生が求めているのは、8月31日に中央政府が行った、2017年の香港行政長官選挙に事実上民主派が立候補できないようにするとの決定を撤回し、「真の民主主義」を香港に与えることです。しかし、中国政府は香港で親英・親米の民主派が行政長官に当選することは共産党一党支配体制に対する脅威になると見ており、中国国内の各地方への影響も考えると決して受け入れられないという立場です。一度決定したことを撤回するのも政権の威信に関わりますし、デモに譲歩したとなればさらなるデモを誘発する恐れもあり、学生側の要求を受け入れる兆候は全くありません。10月21日には学生と香港政府代表が対話を行いましたが、主張は平行線で全く合意に到りませんでした。
■強硬手段使えず
第二の原因は、政府が妥協できない一方で、強硬な手段を使うこともできていないことです。デモ隊は香港中心部の3ヶ所で主要道路を占拠しており、違法行為としていつでも強制排除される可能性はあるのですが、デモ隊の行動には少なからぬ市民が賛成していますので、排除を試みると「援軍」がやってきて再び収拾不能になります。実際、九龍半島側の旺角の「占拠区」は、10月17日に警察が早朝から大規模動員してほぼ排除され、一旦は自動車が通れる状態になりましたが、翌日には再び多数の学生や市民がやってきて占拠されてしまいました。本格的に排除するには相当強硬な手段が必要になりそうですが、世界中の関心を集め、米英などの首脳が関心を表明したこのデモで、大規模な流血を引き起こせば中国が国際的な非難にさらされるのは必至で、強硬策も回避されています。