コロナ禍でも年4千人以上が急性アルコール中毒で搬送、危険な飲酒から若者の命を守るには 「意識がない息子がどうすればよかったのか」近畿大一気飲み死亡事故遺族の慟哭
勇斗さんは4人がかりで抱えられ、約40分かけて近所に住む学生の下宿先に引きずられるようにして連れて行かれた。その際、警察に呼び止められたらまずいと、交番の前を避け、遠回りしたという。 下宿先に到着し、床に寝かされた勇斗さん。午前5時45分、住人の学生が目を覚まして勇斗さんの呼吸が止まっていることに気づき、119番したが、すでに心肺停止状態だった。 ▽「覚えてない」と証言する元学生 両親の執念の聞き取りで事実が明らかになったことで、大阪府警は捜査に着手した。2019年、飲み会に参加した学生と介抱に当たった学生12人を保護責任者遺棄致死容疑で書類送検し、うち9人が過失致死罪で罰金30万~50万円の略式命令を受けた。 だが二人の気持ちは晴れなかった。「責任は(適切な救護措置を取らなかった)全員にあるはず」。2020年、飲み会に関わった学生18人と管理責任者としての近大に約1億500万円の損害賠償を求める訴訟を大阪地裁に起こした。
昨年行われた証人尋問。法廷では、正二さんは勇斗さんが初めてのアルバイト代で買った腕時計を、母親は遺骨を入れたネックレスを身に着けて、当時の学生たちと向き合った。 事件から5年がたち、元学生らはすでに社会人として仕事や家庭生活を送っていた。一気飲みを強要したかどうか「覚えていない」と口々に答え、誰も正面から答えない。ある学生は、Tシャツにジーパン姿で出廷し「勇斗さんは楽しそうに自分から飲んでいた」と証言した。 「勇斗が生きることができなかった人生を、他の学生たちは歩んでいる。こんなに悔しいことはないし、許せない」原告席で見つめた母親は、悔しさを露わにした。 ▽「意識がない状態にあった息子がどうすればよかったのか」 証人尋問を終え、近大とは、大学側が弔意を示し、飲酒事故を防ぐ活動を行う内容で和解が成立した。だが元学生らとの訴訟は続いた。迎えた今年3月31日の判決。大阪地裁は学生18人のうち「関与の度合いが低い」として責任を否定した2人を除く16人について、いずれも勇斗さんを放置すれば死亡する危険な状態と認識しながら救急隊を要請するなど危険を回避する措置を取らなかったとして賠償を命じた。