コロナ禍でも年4千人以上が急性アルコール中毒で搬送、危険な飲酒から若者の命を守るには 「意識がない息子がどうすればよかったのか」近畿大一気飲み死亡事故遺族の慟哭
岡山から駆けつけた父親の正二さん(54)は、勇斗さんが着ていたシャツの背中のあたりに、大量に噴き出た汗が乾いてできた塩の結晶が浮き出ていることや、靴のつま先部分が地面に足を引きずったように不自然にすり減っているのを見て、「これは普通ではない」と事件性を疑った。だが警察は「それだけでは動けない」と取り合ってくれない。 両親は「真実が知りたい」と諦めなかった。勇斗さんが死の直前に参加していた学生たちを訪ねて様子を聞いて回った。次第に分かってきたのは異常な飲み会の実態だった。 ▽吐くまで飲むのが習わし、ビールグラスに注がれた度数40%のウオッカ このサークルでは、飲み会の参加者には黒色のポリ袋が事前に配られるなど、吐くまで飲むことが習わしとなっていた。この日の飲み会は、近大の近くの飲食店で、サークルの役職を3年生から2年生に引き継ぐ行事として午後7時ごろに始まった。 参加者は全員が360ミリグラスに注がれたビールを一気飲みして乾杯。司会役の2年生がピッチャーに入ったビールを一気飲みしたことを皮切りに、勇斗さんたち2年生は繰り返し注がれるビールを飲み干していく。3年生からは「持ったお酒は離さないっ」「飲み足りないから持ってるのっ」とはやし立てるコールがかけられた。
その後、3年生が「そろそろショット行く?」と声をかける。度数40%のウオッカが注がれたショットグラスが運ばれてきた。勇斗さんたちはコールに合わせてショットグラスのウォッカを複数回飲んだが、3年生は「グラスに入れた方が飲みやすいで」とグラスのウオッカを10杯以上ビールグラスに移し替えて渡し、再び一気飲みをあおった。他の2年生が次々と飲みつぶれる中、勇斗さんは「吐けない」とつぶやき、飲み続けた。 午後8時ごろ、勇斗さんはいすの背もたれのもたれかかったまま、周囲の呼びかけに応じなくなった。参加者数人でベンチに運んで寝かせたが、飲み会が終わるまで反応することはなかった。 ▽「就活に関わる」と救急車は呼ばず、交番を避けて遠回り 午後9時ごろ、「はけさし」と呼ばれる介抱と撤収を担当する学生が店に到着。いびきをかき、水も全く飲もうとしない勇斗さんの異変に気がついた。学生たちは急性アルコール中毒を疑ったが、救急車を呼べば「先輩の就職活動に関わる」(学生の証言)と、友人宅に連れて行くことに決めた。