「人権批判は全面排撃せよ」 金正恩氏が指示 脱北外交官の外交公電
韓国統一省は15日、北朝鮮の元外交官で韓国に亡命した李日奎(リ・イルギュ)氏が所持していた北朝鮮の外交公電の内容をまとめた文書を毎日新聞など一部メディアに配布した。北朝鮮は国内の人権侵害や日本人拉致問題などについて長年、国連で批判されている。金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党総書記は外交公電で在米国の北朝鮮国連代表部などに対し、こうした批判を「全面的に排撃する立場を表明せよ」と檄(げき)を飛ばしていた。 李氏はキューバ大使館参事官だった2023年11月に脱北し、韓国に亡命した。この際、16~23年に北朝鮮外務省から在外の北朝鮮国連代表部などに送られた12件の外交公電を持ち出し、韓国統一省に提供した。北朝鮮の外交公電の内容が明らかになるのは異例。 国連総会や国連人権理事会は、北朝鮮内の強制収容所や日本人拉致問題などの人権侵害を非難する決議を繰り返し採択してきた。公電では、金氏がこうした批判を懸念している様子が見て取れる。 16年2月13日付の公電では「敬愛する最高指導者同志(金氏)の指示」として、国連総会などでの対北朝鮮非難決議案を「全面的に排撃する立場」を表明するよう命じた。そのうえで、採択は欠席するよう指示した。 17年1月11日付の公電も金氏の指示を伝える内容。「人権大決戦」が「(朝鮮労働)党の防衛や思想の擁護、制度の死守のための対敵闘争における第一の戦闘場だ」と鼓舞した。そこで勝ち抜くためには国連の場で「支持・連帯勢力を最大限確保する」必要があると強調。「人権問題の論議を(国連で)定例化させる試みを防ぐ」よう命じた。 公電はこうした金氏の指示を踏まえ、「敵が最高尊厳(金氏)を狙って展開する悪辣(あくらつ)な謀略策動を制圧せよ」と発破を掛けている。 李氏は15日、ソウル市内で講演し、公電の内容を説明。「金氏は国際社会からの人権攻勢を防げなければ体制を維持できないかもしれないとの強い脅威を感じていたことが分かる」と指摘した。【ソウル福岡静哉】