ASD患者、AIシステムで識別 会話を分析、語尾や推量表現など特徴 加藤教授(青森中央学院大)開発
青森中央学院大学経営法学部の加藤澄教授(言語学)は、コンピューターに言語を処理させる自然言語処理(NLP)技術を活用し、相手の意図や状況に応じた会話を理解するのが苦手とされる自閉スペクトラム症(ASD)の患者を会話から識別する人工知能(AI)システムを開発した。特に診断が難しい青年期以降のASD診断を補完する役割が期待されている。NLPを言語選択に応用したASD診断支援手法に関する研究成果は世界初とみられ、9月に米国の学術誌「PLOS ONE(プロス・ワン)」に掲載された。 加藤教授は弘前大学大学院保健学研究科と医学研究科の客員研究員も兼任。弘大大学院の斉藤まなぶ教授(保健学研究科)と中村和彦教授(医学研究科)の協力を得て、ASD患者と非ASD者約200人分の会話データを1400例集積し、双方の語彙(ごい)・文法の選択パターンを解析するコーパス(データベース)を2022年に国内で初めて構築した。 今回の研究では、コーパスから14歳以上のASD患者と非ASD者のデータを抽出し分析。双方向的なコミュニケーションが求められるインタビュー形式の会話で、ASD特有の特徴がより明確に表れることを確認した。例として、ASD患者は問いかけや同意などの際に使う「~ね」の語尾や、「たぶん」「~かも」といった推量表現などを使用しない傾向があることが明らかになった。これらのような147項目にわたる語彙・文法の選択パターンを分析し、機械学習によりASDと非ASD者を識別するAIシステムを開発した。 ASDは8割以上の患者にほかの発達障害が併存するとされ、症状は多様。うつ病や不安障害など精神疾患を併発しているケースも多い上、年齢が上がるにつれて対処能力が身に付き、特性が目立ちにくくなる場合があり、青年期以降の診断は幼児期や学童期よりも難しくなるといわれる。 現時点での診断精度は73~87%程度。臨床的には非常に高い水準とされるが、より幅広くサンプルを収集し、さらなる精度向上を目指す考えだ。加藤教授は「認知と言語の使用は深い関連性を持ち、ASDのような認知障害における言語選択の研究を通じて認知と言語の相互関係を一層明らかにできる。この相互関係を解明することでASDの誤診を減らし、より精度の高い診断方法の実現につなげたい」と話している。