金融緩和という壮大な社会実験を経たビットコインの未来とは──慶應義塾大学 坂井豊貴教授【2024年始特集】
「怪しい」は「新しい」の裏返し
──アカデミアでのビットコインの見方や評価も4年間で変わったのでしょうか。 坂井:残念ながら、4年前と変わっていないと思います。経済学者でビットコイン好きを公言しているのは、今も私くらいでしょう。名前をあげることは控えますが、アンチビットコインだった経済学者の人たちは、依然としてアンチビットコインです。彼らは本当に頑固だと思いますが、収益機会を逃したという意味で、頑固でいることの費用は結構高くついたのではないでしょうか。 ──中央銀行出身の方にビットコインをはじめ、暗号資産にあまり肯定的ではない方が多い印象があります。 坂井:その傾向はあると思います。見ている世界が違うのでしょうね。では、どちらの世界観がより正しいのか。結局ビットコインはアセットなので、価格が上がったか下がったかで判断するのがフェアではないでしょうか。それが答えです。 ──ビットコインはいよいよアメリカで現物ETF(上場投資信託)が承認される可能性が高く、今後多くの人に受け入れられそうな様子です。「怪しい」と見る向きは減っていくのでしょうか。 坂井:ビットコイン現物ETFが承認されることは、ビットコインが既存金融の中にも位置を得るということで、大きな節目になると思います。「怪しい」についていうと、いまだ多くの人がそう感じる理由として、「新しい」があるでしょうね。生物というものは基本的に保守的なんです。大抵の新しいものを、「怪しい」と警戒する。これは進化の過程で身につけた性質で、サバンナで新しいものを見かけたら、警戒しないと生き残っていけない。ただ、資本主義はサバンナではない人工空間です。サバンナをサヴァイブするための本能は、必ずしも資本主義のサヴァイブには向いていません。 ──2024年、暗号資産、ブロックチェーンに期待することはどんなことでしょうか。 坂井:冬の時代を頑張ったプロジェクトが次々成功すると良いですよね。ただ、他者のプロジェクトに期待するよりは、私は自分が関わるプロジェクトや企業を成功させたいです。先ほど申し上げたONGAESHIプロジェクトと、オンチェーンデータの活用を進めるChainsightプロジェクト、そして長く関わっているWeb3スタートアップGaudiyの成功に貢献したいと考えています。他人ではなく自分に期待することの方が、個人の自律を尊ぶビットコインやWeb3の基本姿勢と調和します。 4年前ビットコインについて語るときは、もっと「ムキになって」ビットコインの持つ可能性などを説明せねばなりませんでした。いまはもうその必要がない。楽と言えば楽ですが、以前より面白みが減ったともいえます。好ましい変化であることは間違いありません。 坂井豊貴慶應義塾大学経済学部教授。ロチェスター大学経済学博士課程修了(Ph. D)。レーティング・アルゴリズム、集団の意思決定、市場ルールなどの設計を研究。経済学のビジネス実装を行うEconomics Design Inc.を2020年に共同創業、取締役に着任。22年よりプルデンシャル生命保険株式会社・社外取締役を併任。Astar Network、Chainsight、Gaudiy、ONGAESHIなどのWeb3事業にメンバー、アドバイザー、エンジェル投資家などの立場で関与。主著『多数決を疑う』(岩波新書)は高校教科書に掲載。ビットコインに関する著作に『暗号通貨vs国家』(SB新書)。 |インタビュー・文:増田隆幸|写真:小此木愛里
CoinDesk Japan 編集部