金融緩和という壮大な社会実験を経たビットコインの未来とは──慶應義塾大学 坂井豊貴教授【2024年始特集】
カオスな時代の終焉
──若い世代にとっては、ある意味、残念なトレンドにも思えます。 坂井:暗号資産の界隈は、無名の若者が頭脳と野心で駆け上がるカオスな時代が終わったように思います。若い人をディスカレッジしたくないのでもう少し丁寧に言うと、そういう人はこれからも現れるだろうけれど、そういう人たちが多く現れて時代を動かすというようにはならない、という意味です。かつて、カオスな時代に参入した人たちは、私が知る限り今も楽しそうにやっているし、財産や地位を築いた人も多い。「Tシャツばかり着ていた人が、スーツも着るようになった」ケースでしょうか。 ブロックチェーンは今後、主にRWAで使うものになると思います。主人公はスタートアップではなく、大手企業になるでしょう。 ──将来、ブロックチェーンは特にどういった用途に有用だと思われますか。 坂井:カーボンクレジットです。温室効果ガスを削減したら生成できるクレジットで、トークンのようなものです。完全に電子的に発行するので、トークンとアセットの紐付けが不要で、用途は「バーン(焼却)」です。例えば、温室効果ガスを1トン排出した人が、1トン分のトークンを買って、バーンするのが用途です。 今、世界には何百か何千かのカーボンクレジットが存在していて、スマートコントラクトでの売買に向いているし、バーンは暗号資産でよく行うことです。パリ協定は、2050年までに温室効果ガスの純排出量をゼロにする目標を立てています。今後のブロックチェーン利用の本命ではないでしょうか。 ──将来に向けた取り組みといえば、DAO(分散型自律組織)に関する規制整備が自民党web3PTを中心に進められています。DAOについては、どのようにお考えですか。 坂井:DAOは、私は好きですが、実はそれほど期待していません。組織にはビジョンが不可欠で、ビジョンを浸透させるための制度も必要です。少人数のうちは問題がなくても、人が増えるにつれて、いろいろな考え方を持った人たちが入ってきます。 企業であれば、教育を担当する部署など社内体制も必要になる。DAOがそうしたものを持てるのか、どれくらい持続可能な組織を作れるのか。これは今後の社会実験を見るしかないと思います。DAOや税制改正など、Web3をめぐる最近の自民党の取り組みは素晴らしいと思っています。与党がこういう新しいというか、ラディカルなことを考えてくれると、日本の未来は明るい気がしてきます。日本は悲観論が蔓延しているように思えますが、実は政治家を含め、いろいろなところで人が育っていたり、現れたりしていると思います。Astar Networkを牽引する渡辺創太さんや、ONGAESHIの福原正大さんは、その好例でしょう。私ももっと頑張らないといけないと感じます。 ──ビットコインは「究極のDAO」という言い方もあります。 坂井:ビットコインくらい目的が簡単であれば、ああいうDAO的な運営ができるのだと思います。通貨の維持管理という目的ですね。しかし例えば、国際送金のように複雑な事業をDAOでできるようには思えません。各国の金融当局と粘り強いコミュニケーションを取ったり、各国のコンプライアンスを守ったりといった複雑な作業は、既存の大手金融機関の得意分野です。「DAOでしかできないこと」がDAOの領分になっていくのだと思いますが、やはりパブリック・ブロックチェーンの維持管理が、その本命になっていくのかなと思います。それはやはりビットコインのように、DAOである必然性があるから。