引退発表・伊東輝悦と「マイアミの奇跡」舞台裏(4)ロナウド投入後の「小さな事件」と、70メートル激走後の「決勝弾」、走り続けた「32年のプロ生活」に幕
■「超ラッキーゴール」ではない
最後のシーンだけ見ると「超ラッキーゴール」のように思えるかもしれない。しかし、アクシデントのようなブラジル守備の混乱を除けば、日本の得点はすばらしいものだった。 この直前、猛攻をかけたブラジルは、日本に奪われても、ものすごい切り替えの速さですぐに奪い返し、また攻め込んだ。そして、ペナルティーアークの手前でロナウドがボールを受け、松田直樹をかわし、さらに前に立つ田中誠を抜きにかかろうとした。そこに戻ってきたボランチの服部年宏が右足を出してボールを奪い取り、すぐ右にいた伊東に渡したときから攻撃が始まる。 伊東は時間をかけずに左のスペースに降りてきた城にグラウンダーのパス。城はワンタッチでサポートの前園真聖に落とす。そして前園は追走してきたフラビオ・コンセイソンをいなしてボールをキープ、味方が駆け上がる時間をつくると、左ワイドに開いた路木にパスを出したのだ。 このとき、自陣ペナルティーアークの10メートルほど前から城へのパスを通した伊東は、足を止めずに前線に上がり、自分の前にいた中田英寿が路木のサポートのために左に寄ったときには、最前線の城と並ぶ位置まで上がっていた。そして伊東を見ていたロナウド・グイアロがボールにつられてアウダイルのほうに走り寄ったときには、完全にフリーになっていたのだ。
■サッカー王国で培った「真骨頂」
最後のワンプッシュは、伊東でなくてもできた。繰り返し言うが、伊東が触らなくてもゴールに転がり込んだ可能性も高い。しかし、自陣ゴール前で攻撃の起点となり、そのまま70メートルを走り上がってこの場所に現れたことが伊東の真骨頂であり、日本の「サッカー王国」清水で培ってきた「試合勘」だった。 その後、ブラジルは猛攻をかけるが、松田がロナウドとの1対1に勝ち、全員が体を張って守った。ジュニーニョに対する鈴木のタックルは、現在の判定基準なら「DOGSO(決定的得点機会阻止)」でレッドカードになるシーンだったかもしれない。しかし、アルチュンディア主審はイエローカードを出しただけだった。 ペナルティーエリア直前からのそのフリーキック。ベベットのシュートは正確にゴール右をついたが、GK川口が完璧なセーブではじき出す。そして西野監督は右ウイングバックの遠藤に代えて白井博幸を、MF中田に代えてDF上村健一を、さらにはFW城彰二に代えて松原良香を投入、焦りの色が濃いブラジルに余裕を与えず、ついに「奇跡」を実現させたのである。 このときから、実に28年間という長い時間が経過した。その年月が、日本のサッカーがメキシコ・オリンピックからアトランタ・オリンピックまで「世界」から見放され続けていた時間と同じなのは、とても不思議な感覚がする。そして何より、あのとき、70メートル走ってブラジルのゴールにボールを押し込んだ伊東が、その間ずっとJリーグでプロとして戦い続けてきたことに、強い感動を覚える。 プロになってから32シーズン、伊東は560試合ものJリーグ・リーグ戦に出場してきた。試合に出られないときにも練習グラウンドで全力を出し尽くし、「プロ」として恥じることのない生き方をしてきた。彼はずっと、マイアミのローズボウルで走った70メートルのように、自分自身の感性と判断を信じ、全力で走り続けてきた。11月24日日曜日、ホーム愛鷹広域公園でのJ3第38節松本山雅戦が、彼の「現役選手」として迎える試合になる。
大住良之
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