BCG流「企業向け生成AI」活用5つのポイント、AI×日本の強みとは?
信頼性の高いデータの整備は不可欠
AIに学習させるためには、良質なデータが不可欠だ。信頼性の高いデータを整備しておかなければ将来的にボトルネックになる可能性があるため、国としてのデータ戦略と整合性を持たせておく必要がある。 これまで国が優先的に整備を進めてきたのは、マイナンバーなどの国民ID、事業者ID、土地台帳など、ベースレジストリと呼ばれる基本データだ。今後はさらに医療、教育、防災、農業などの準公共セクターでデータの標準化を進めていく必要がある。 自動車、製造業、物流などの業界では、民間主導でデータを標準化したほうがよい。また、生成AIの場合、必ずしも構造化されていなくてもデータを活用できるため、国会図書館、論文、企業保有分も含めて、高品質なデータをいかに収集、蓄積、アーカイブ化、公開するか、検討が必要になるだろう。
産業レベルの「ゴールデンユースケース」を特定し加速
新しいテクノロジーの開発はスタートアップなどが主導することが多いが、国家レベルでの競争も見逃せない。戦略的な基盤モデルの構築と保有は、日本の産業にとって経済的にも、競争面でも、大きなインパクトを出すことができる。 その実現には、各産業で生成AIによって大きな経済効果を創出できる産業レベルの「ゴールデンユースケース」を特定し、国がインフラや基盤からアプリケーションまで加速させる政策を打つという形が理想だ。 参考になるのが中国である。領域ごとに中心となる企業を選定して、標準的なプラットフォームをつくる政策をとっている。保険では中国平安保険、通信ではファーウェイが選ばれて医療や自動運転に関するプラットフォームを立ち上げ、そこに他のスタートアップが相乗りしている。見方によってはえこひいきともとれるが、そこまで振り切って重点領域の競争力を高めようとしている事実は見逃せない。 日本として優位性をつくるためには、勝負すべき産業・領域で戦略的にプラットフォームを明示し、データの標準化を進め、自由に開発ができる環境を整えて、利活用を加速化させていく必要がある。また、規制によってイノベーションが阻害されないように、規制改革を行ったり前述したサンドボックスなどの仕組みを整備したりすることも重要である。 現在はチャットGPTのように業界横断で有効な大型の汎用モデルが主流だが、今後は特定の業界に特化した多様なモデルが登場してくるだろう。誰にでも使えるという生成AIの大きな特徴がAI活用のハードルを下げたことで、さらに多くの企業にとってビジネスに手軽に取り入れやすい環境が整っていくと考えられる。すなわち、自社だけでなく競合も顧客もAIを活用する時代に入ったと理解する必要がある。 デジタルトランスフォーメーションやAI企業への変革を推進してきた企業は、生成AIにより変革を加速させ、さらなる優位性の構築を狙えるだろう。これまでデジタル化で後れをとっていた企業も、巻き返しを図る絶好のタイミングと捉え、AI戦略にいま一度取り組む契機としてほしい。
執筆:ボストン コンサルティング グループ 豊島 一清、中川 正洋