老舗酒蔵の国産ウイスキー市場参入続々 海外ブーム背景に良質な水と発酵技術で勝負
創業100年超の老舗酒造がウイスキー造りに乗り出した。愛媛県八幡浜市の「梅美人酒造」。昨年3月に製造免許を取得、県内唯一のウイスキー蒸留所として今年4月に初出荷したモルトウイスキー「多喜」は瞬く間に完売。国内外のバイヤーからも問い合わせが相次ぐなど好評を得ている。ウイスキー製造への参入は日本酒や焼酎メーカーを中心に増加傾向にあり、専門家は「日本のウイスキーは国内外で需要が高まっている。新しい蒸留所ならではのこだわりの商品を世界に発信してほしい」と話す。 【写真】愛媛県八幡浜市の梅美人酒造が発売したモルトウイスキー「多喜」。水割りやロックがおすすめという ■コロナ禍の逆風から 梅美人酒造は大正5年創業。日本酒「梅美人」のほか、梅酒や焼酎、地元産のかんきつを使ったリキュールなどを製造・販売する。 ウイスキー製造のきっかけは5年前からのコロナ禍だ。主力の日本酒が飲食店の時短営業などのあおりを受け販売が激減。打開策を模索するなか、目を付けたのが近年国内外で人気が高まっているウイスキーだった。 5代目社長の上田英樹さん(62)が独学で製造技術を身に付け、令和5年3月にウイスキー製造免許を取得。初のウイスキー造りが始まった。国税庁などによると、愛媛県内でウイスキー製造免許を持つ事業者は同社のみという。 ウイスキー製造には酒造ならではの利点もあった。品質を大きく左右するといわれる水は、日本酒造りにも使ってきた本社内の井戸からくみ上げた地下水を使用。大麦から抽出した麦汁を発酵・蒸留した原酒を詰めた樽(たる)は、国の登録有形文化財の蔵で保管することで、温度と湿度を一定に保つことができるという。 こうして約1年の熟成を経てモルトウイスキー「多喜」が完成した。今年4月に松山市の百貨店で先行発売すると瞬く間に完売。国内の酒販店や外国のバイヤーからも問い合わせが来るなど好評だったという。 同社は当面、年間出荷数を千本程度とし、蒸留した残りのウイスキーは樽で長期熟成させる方針。令和10年以降にラインアップを増やすなどして本格出荷を目指すという。上田社長は「1年で売り切る前提の日本酒と違い、ウイスキーは熟成した時間が価値を生む。熟成を重ねてより良いお酒を造り、多くのウイスキーファンに飲んでもらいたい」と話す。 ■高まるウイスキー人気