東京ワイン 海と農の恵みを醸して
「江戸前」で海中熟成
同ワイナリーの挑戦は他にもある。沈没船から引き揚げられたワインがおいしく変化していたという実話からヒントを得て、東京湾でワインを海中熟成させる試みを続けている。近くにある東京海洋大学と2018年に始めた産学共同プロジェクト「海中熟成江戸前ワイン」では、毎年約200本のワインを東京湾の海中に沈めておいしさの秘密を探っている。 沈めるワインのブドウの品種は毎年変え、地上熟成のものと比較を続けてきた。同ワイナリーの醸造家、宮田貴子さんは、「海中熟成の方が渋みはまろやかになり、飲みやすい。スパークリングワインは泡がよりきめ細かくなる」と説明してくれた。おいしさが増すポイントは水温がある程度一定する年末から初夏の時期に沈めることだといい、宮田さんは「潮の満ち引きによる振動も影響しているかもしれない」と推測する。 同ワイナリーは予約すれば見学が可能だ。収穫後のブドウをつぶす作業などでボランティアも随時募集している。自分が作業に参加したワインが店頭に並ぶのを想像するのも愉快だろう。
「練馬の農」を表現する
東京23区の農地面積の4割を占め、最大面積を誇る練馬区には都内初のワイナリーがある。地元で採れる多種多様な野菜の料理に合うワインを、練馬産などの国産ブドウを使って造っているのがウリだ。 池袋駅から西武池袋線で20分揺られて大泉学園駅へ。下車して10分ほど歩くと、住宅街に立地する「東京ワイナリー」が見えてくる。周辺には農地が点在し、「農の練馬」を実感させる。 経営する越後屋美和(えちごや・みわ)さんは元々、東京・大田市場で野菜の仲卸をしていた。仕事を通して知った練馬産のキャベツのおいしさと、その後に出会った東京生まれのブドウ品種「高尾」が、越後屋さんを醸造家の道へと導いた。東京や国内の様々な産地で収穫されたブドウを使い、毎年30種類以上のワインを醸造している。
小さな建物の一部を使って開いているワイナリーには、ステンレス製の醸造用タンクが5基並ぶ。1基当たり500キロのブドウを一度に仕込むことができる。作業はボランティアとともに行うが、毎日が重労働だ。温度管理などが万全の大手ワイナリー施設とは異なり、天候や気温など時々の条件に左右されやすく、気苦労も絶えない。 18年には地元農家や飲食店とともに、練馬産ブドウだけで醸造する「練馬ワインプロジェクト」をスタートした。使われなくなった農地を借り、練馬区内の7カ所でブドウを栽培している。畑の大きさは大小さまざまで、樹数は20~700本と各所でばらつきがあるものの、ピノグリ、シャルドネ、小公子、カベルネソーヴィニヨン、プチサンマン など14品種を育てている。試行錯誤を繰り返しながら収穫量を増やし、20年にオール練馬産ブドウで醸造した「ねりまワイン」の一般販売にこぎつけた。