社説:強制不妊の補償 全面救済へ推進体制を
戦後最大の人権侵害の反省を肝に銘じ、遅きに失した全面救済の責務を果たさねばならない。 旧優生保護法下の強制不妊手術を巡り、一連の訴訟に参加していない被害者らを対象とする補償法案の素案を超党派の議員連盟がまとめた。 前文で国会と政府による責任を認め、「謝罪」を明記する。補償金は手術を受けた本人が1500万円、配偶者が500万円で、旧法に基づく人工妊娠中絶手術を受けた人には一時金として別途200万円を支給するとしている。 戦後に国会が全会一致の議員立法で制定した旧法は、廃止から28年。最高裁が今年7月に出した違憲判断を受け、国が一貫して後ろ向きだった謝罪と補償の本格的な枠組みが、ようやく法制化されることになる。来月に予定する臨時国会で迅速に成立させるべきだ。 あまねく救済を図る上で課題となるのは、被害者への制度の周知徹底と申請手続きの支援である。 国によると、1948年から半世紀近くで不妊手術を受けたのは約2万5千人で、生存者は推計約1万2千人という。裁判に訴えたのは40人に満たず、2019年に制度化された一時金支給の認定は、千人余りにとどまる。 さらに、障害などを理由にした人工妊娠中絶手術の件数は、不妊手術の倍以上とみられる。 当事者が高齢な上に、不妊目的と知らずに手術を受けさせられたり、周囲の偏見を恐れて名乗り出られなかったりする事情が影響しているのは明らかだ。 補償は申請方式で、個別に連絡するのは自治体の判断に委ねるとしている。都道府県がこれまで一時金支給で受け身の対応を続け、調査や情報開示に消極的だった経過をみても、対象となる人の把握が進まない恐れが強い。 請求期限は5年とするが、周知が不十分であれば漏れる人が続出しかねない。法施行後の状況を踏まえ、柔軟に見直したい。相談窓口や事後のケアも含めて自治体任せではなく、国が主体的に補償の推進体制をつくるべきではないか。 素案では、第三者機関に委託して旧法に基づく不妊手術と人工妊娠中絶に関する調査を実施し、原因究明や再発防止につなげるとしている。 障害の有無で優劣をつける「優生思想」に基づく差別意識は今も社会にはびこる。子を持つ願いを断ち、尊厳を奪った政策の過ちを世に問い直し、偏見を拭う取り組みが不可欠だ。