「特攻隊員」に選ばれた者と選ばれなかった者を分けた「残酷な基準」
今年(2024年)8月17日に放送されたNHKスペシャル「“一億特攻”への道~隊員4000人生と死の記録~」は、特攻を美化せず隊員を貶めず、各人の出身地や経歴を全て明らかにし、陸海軍だけでなく銃後にまで視点を広げた大変な力作だった。この番組には私もお手伝いし、「特攻志願と隊員の選別」について少しだけ話をしているが、ここでは番組内で私が語り切れなかった「特攻志願の闇」について、補足してみようと思う。 【写真】敵艦に突入する零戦を捉えた超貴重な1枚…!
1つのテーマを追い続けた男
NHKスペシャル「“一億特攻”への道~隊員4000人生と死の記録~」を制作したNHKエンタープライズの大島隆之ディレクターは、約15年前、特攻隊をはじめとする元軍人や遺族、関係者の取材を始めた。最初は番組になるかどうかもわからない手探りの状況だったが、同志の金沢裕司カメラマンとともに、私費を投じて手弁当で取材を続けた。私は大島さんが取材を始めた頃、人の紹介で会い、以後、折に触れ番組制作を手伝うようになった。最初に会った当時、大島さんは27歳だったと記憶している。 15年前といえば、かろうじて元特攻隊員をはじめ当事者が少ないながらも健在で、その言葉を筋道立てて聞くことができた、まさに最後のチャンスだった。努力が実を結んで、それから何年も経たないうちに番組の企画が通るようになったが、大島さんの声価を高からしめたのは、2013年、一般社団法人全日本テレビ番組製作者連盟が、その年もっともすぐれた番組作品を選ぶ「ATP賞大賞」を受賞した「零戦~搭乗員たちが見つめた太平洋戦争~」だろう。 この番組では、私も取材のロケハンのため、大島さんと2人でポートモレスビーやラバウルやブカ島を旅し、また番組を書籍化した同タイトルの本を、連名で講談社より上梓した。 以後、大島さんは、一次資料とインタビュー、さらに最新の分析をもとに、戦争体験とヒューマニズムを絶妙に織り合わせた「大島節」とも呼べるスタイルを確立、毎年のように戦争関連番組を制作している。 異動が多いテレビ業界で、大島さんのように長きにわたり、ねちっこく一つのテーマを追えるディレクターはそうはいない。