どんな血液型でも大丈夫な「人工血液」、献血者不足を背景に実用化への歩み進む
6年前、同島で作業事故に巻き込まれた50代男性は生血輸血を受け、一命を取り留めた。男性の妻は「夫は運がよかった」と振り返る。生血輸血を巡り、国は感染症などの懸念から「特別な事情がない限り行うべきではない」と定めるが、男性が搬送された県立大島病院では18年までの5年間で18人に実施したという。麻酔科の大木浩部長は「目の前の患者を助けるための綱渡りが続いている」と明かす。
事故などの救急救命現場でも迅速な輸血が求められる。だが国の研究班の調査(22年度)によると、医師が同乗するドクターカーを備える130施設のうち現場の輸血体制を整えているのは18施設(14%)のみだ。主に血液製剤の温度管理の難しさが障壁で、全国ドクターカー協議会の横堀将司理事は「人工血液は首都直下地震対策としても重要だ」と早期の実用化を求める。
各国の開発競争は加速しており、米国では22年に全土で血液不足に陥るなどしたことから、米国防高等研究計画局(DARPA)が血液の成分を全て含む製品の開発を目指している。
日本では血液製剤をもとにしない新しいタイプも登場。京都大の江藤浩之教授らはiPS細胞(人工多能性幹細胞)から血小板の作製に成功し、血小板が減って出血しやすくなる病気の患者に19~21年に臨床研究を行った結果、安全性が確認された。慶応大発ベンチャー「アディポシーズ」(東京)は美容整形などで吸引した脂肪から「人工血小板」を作製、血液製剤として使えるよう開発を進めている。
もはや夢物語ではない人工血液の開発。日本は世界をリードできる可能性を秘める。