「イスラム国」拘束事件が今後の日本に残したもの 国際政治学者・六辻彰二
2月1日、過激派組織「イスラム国」(IS)は、拘束していた後藤健二氏の殺害をインターネット上で公表しました。1月20日に公開された動画で、ISは湯川遥菜氏とあわせて2億ドルの身代金を要求。しかし、24日に湯川氏殺害の画像が公開された後には、ヨルダンで拘束されているサジダ・リシャウィ死刑囚の解放に要求が切り替わるなど、目まぐるしく移り変わる状況のなか、最悪の結果がもたらされました。 【写真】イスラム国で揺らぐ「国家」 近代史を否定する「現代性」
「日本人を標的にする」声明の意味
後藤氏の殺害の発表にあわせて、ISは今後、場所を問わず、日本人を標的にするという声明を出し、「日本の悪夢が始まる」と宣言しました。2003年のイラク戦争の際、米国主導のイラク攻撃を支持したことで、日本はアル・カイダの当時の指導者オサマ・ビン・ラディンから、やはり「敵」と名指しされました。しかし、今回の場合、その信憑性はより大きいものがあります。 これまで日本は、ISを封じ込めるための米国主導の有志連合に、軍事以外の外交、民生分野で協力してきました。拘束していた日本人の殺害を公表した今回の事件は、有志連合の結びつきを弱めることが一つの目的になったといえます。 その一方で、メディア露出を増やすことで、支持者の予備軍をリクルートすることも目的だったとみられます。アル・カイダもインターネット上での宣伝を重視してきましたが、新興勢力であるISにとって、宣伝は人員をリクルートするうえでより重要です。「メッセージ内容の信頼性」がなければ、宣伝効果はあがりません。彼らがそのように宣言した以上、大多数の日本人の受け止めとは無関係に、他の有志連合参加国の国民と同様、日本人もISの標的になったとみて間違いないでしょう。 特に、武器管理が厳しい日本国内よりむしろ、欧米諸国だけでなく、ISに戦闘員が赴いているマレーシアや中国など、アジア、中東、アフリカ各地に居住する在外邦人が危険にさらされるリスクは、これまでより高くなったといえます。