豪雨後急ピッチで進む能登半島の公費解体「次の壁」は雪 39%完了、進捗に地域差
被災地にとって公費解体は重要な課題だが、事前の想定不足も垣間見える。輪島市の地域防災計画には人手が不足した場合の応援要請を含め一連の対応が記載されているが、平時の訓練に公費解体の対応は含めていなかったという。
今回の地震で被害家屋は市内で1万棟以上あり、担当者は「ここまでの被害は想定していなかった」と明かす。政府は各自治体に対し、平時から公費解体に関する要綱などを整えるよう求めている。
■事前連絡なく解体、石川県内で5件
能登半島地震の公費解体では、所有者に事前の連絡なしに解体されたケースが、石川県内で少なくとも5件あったことが確認されている。大切な家財を搬出できなかった被災者は「なぜこんなことが起きるのか」と憤る。
公費解体は、被災建物を所有者に代わって市町が解体・撤去する制度。解体前に所有者と市町の担当者、業者が現場で立ち会い、家財の運び出しも念頭に開始日や終了の目安、事前連絡の有無などを確認する。
しかし県によると、事前連絡をせず解体したケースが12月中旬までに5件発生。ほかに、同姓の別の住民の家屋を誤って解体しようとしたケースが1件あった。
同県輪島市の本郷明夫さん(69)は、自宅兼店舗で約40年間、はんこ店を営んでいたが、地震で全壊して公費解体を申請。6月に3者で立ち会いをした際、倒壊家屋の中にはんこの材料の象牙や彫刻刀、図案を収めたパソコンなどがあるため、市や業者に事前連絡を依頼していた。
解体予定の7月3日は作業が見送られ、翌4日も作業はない旨を聞いていたが同日、事前連絡もなく解体が始まった。抗議すると、業者から「作業が始まったら中断できない」「立ち入らないで」と言われ、10日ほどで更地になったという。
跡地からは約40年間愛用してきた彫刻刀が見つかったが、折れて使い物にならなくなっていた。本郷さんは「復興のために解体を申請したのに、大切な商売道具が奪われてしまった」と嘆く。