「AIはまだ、本当の意味での創作はできていないと思う」…漫画家「大暮維人」が今の思いを語る「AIにできなくて、漫画家にできること」
1995年にデビューして以降、常に走り続けてきた大暮維人。 画業30周年を目前にした「今」の大暮維人に迫る! 【マンガ】19歳理系大学生が「フィールドワーク中」に死にかけた「ヤバすぎる体験」
無心の境地が気持ちいい
――今現在、漫画家という職業をどのように感じていますか? 大暮 締め切りがなければ、すごく楽しい仕事だと思います。とはいえ、締め切りがなければ絶対にできない、と言うかやらないかもしれないので、ジレンマですね(笑)。あとは、やっぱり必要なのは体力だなぁと、しみじみ実感しています。 ――イラストの寄稿など、漫画以外の仕事で大切にしていることはありますか? 大暮 大切にしているのは「裏切らない」ということです。僕に何かを期待して、誰かが仕事を依頼してくれているのと思うので、その期待を裏切らないものを描くということは、最低ラインだと思っています。また漫画以外の仕事は、普段と違う思考や勉強が必要なので刺激的ですね。漫画的に言えば、修行している感覚です(笑)。 ――仕事中に楽しいと感じるのはどんな時ですか? 大暮 普段から音楽を聴きながら原稿を描いているんですけど、たまに漫画と音楽がシンクロすることがあるんです。“バチッ”とハマってフロー状態になるというか。あれは気持ちいいです。作業でいうなら無心で手を動かしている状態…キャラや背景の細かな描き込みをしている時が好きです。地味な作業ですが、たまに変にテンションが上がってくることがあったり。
絵が上手いとは「個性の表出」が上手いということ
――漫画を描き続けてきて、時代や漫画の在り方の変化について実感していることはありますか? 大暮 ここ最近、漫画業界にもAIが参入してきました。「かかってこいや、オラァ」と言いたいところですが、技術勝負をしたらとてもじゃないが、敵わないなと。 でも、今も昔も絵が上手い人が売れていたわけではないと思うんです。絵が上手い人というのは絵が上手いように見えているだけで、一番の才能は「個性の表出」なんだと思います。「絵が上手い」という個性を持っていて、それを表に出す力が優れている。逆に言うと、絵そのものは苦手でも売れている人もたくさんいるじゃないですか。だから絵に限ったことではなく、「自身の個性の表し方が上手い」ということが大切なんじゃないかと。 AIが出てきて技術というものに意味がなくなる時代においては、自身の個性、自分だけの絵を表出する能力を持っている人こそが「絵が上手い」ということなのかなと思っています。 ――そのAIに勝つ秘策はありますか? 大暮 結局はコミュニケーションになるのかな…。僕たちが話しをする時って相手がどういう感情で自分の言葉を受け取るか、ある程度予測するじゃないですか。そういった先取りのテレパシーのようなものが漫画を描く時にも必要なんじゃないかと。リアルの僕は話し下手ですが、漫画を通せば頑張れると思うんで(笑)。あと、現段階ではAIというものは人間を喜ばせる感情までは持ち合わせていないと思うんです。つまり、本当の意味での創作はできていないんじゃないかと思うんですけど…秘策がわかったら教えてください!