ブリュッセルで連続爆発 後手に回ったベルギーのテロ対策
ベルギーのブリュッセルの空港と地下鉄で連続テロが発生しました。昨秋の仏パリ同時テロの衝撃も冷めやらぬ中、ベルギーでいったい何が起きたのでしょうか。厳戒態勢だったはずのテロ対策はどうだったのでしょうか。 【写真】<パリ同時テロ>欧州全域が脅威に テロ対策としての異文化との共生
平日朝のブリュッセルを襲った爆弾テロ
ベルギーの首都ブリュッセルで22日、空港と地下鉄駅の2か所で連続して爆発が発生し、少なくとも34人が死亡し、180人以上が負傷する大惨事となった。これらの爆発で、2人の日本人も重軽傷を負っている。 ブリュッセル空港で二度の爆発が発生したのが、現地時間の22日午前8時ごろ。爆発のあった空港内のターミナルビルは激しく損傷しており、少なくとも一回の爆発ではスーツケース爆弾が使用された可能性が指摘されている。現場では爆弾が取り付けられたベストや自動小銃も発見されている。1時間後の午前9時過ぎには、ブリュッセル市内中心部、EU本部に近い地下鉄のマールベーク駅で、発車直後の地下鉄で爆発が起こった。 事件発生から間もなくして、ベルギー政府はテロの警戒水準を最高レベルの4まで引き上げ、ブリュッセル市内の公共交通機関はストップし、国内の原子力発電所でもほとんどの職員に対して避難指示が出され、市民は極力外出を控えるよう伝えられた。ブリュッセル在住のジュリー・タイレルさんは、「こういったテロの可能性は以前から語られていたものの、実際に町の機能が全てストップしている光景に驚きを隠せません。今はメッセンジャーなどを使って家族や友人の無事を1人ずつ確認しています」と語った。 事件発生後、過激派組織「イスラム国」(IS)と繋がりがあるとされるニュースサイトがISの関与を伝えており、事実上の犯行声明とみられる。ベルギーの警察当局は空港の防犯カメラがとらえた3人の男性の写真を公表。3人のうち2人は自爆したとみられ、当局は残る1名の情報を市民に求めている。
「テロの温床」としてのベルギー
昨年11月にフランスのパリで発生した同時テロでは、バタクラン劇場の無差別銃撃でも多くの市民が殺害された。事件発生後に周辺の捜査を行っていたフランスの警察当局は、劇場近くに停められていた外国ナンバーのレンタカーを発見。車内にはクシャクシャの状態で放置された駐車違反のチケットがあり、そのチケットはベルギーのブリュッセル近郊のモーレンベークで発行されたものと判明した。その情報がベルギーの警察当局にわたり、モーレンベークで家宅捜索を行った警察は、パリの連続テロ事件で車両の提供などに協力した疑いで3人を逮捕している。ベルギーはISの戦闘員としてシリアやイラクに渡る人口別の割合がヨーロッパ内で一番高く、その中でもモーレンベークは、以前から「テロリストの温床」と国内外のメディアから指摘されてきた。 ISの戦闘員としてシリアに渡航したベルギー人は推定で500人弱とされており、シリア以外にもイラクやアフガニスタンに戦闘員として渡ったベルギー人も少なくない。この傾向は10年以上前から存在しており、2005年にはイラクで米軍の車列で自爆テロを起こしたメンバーの中に、ベルギー南部シャルルロワ出身で、イスラム教に改宗した女性も含まれていた(イラクで自爆テロを行った最初のヨーロッパ人女性とされる)。また、アフガニスタンでタリバンと共闘していたベルギー人らが帰国後に、国内でテロを計画したが、治安当局によって未然に阻止されている。移民の多いモーレンベーク の失業率は25パーセント以上で、定職に就けない若者の不満を地元の過激派ネットワークが上手く利用しているとの報道もある。 モーレンベークの人口は過去10年で約25パーセントも増加しており、モロッコからの移民を中心としたイスラム系コミュニティが存在する。現在はイスラム教徒が町の人口の約4割を占めており、ベルギーの他の町よりもイスラム教徒の比率は高い。犯罪発生率が高いモーレンベークでは、地元警察も踏み込んだ捜査には消極的とされ、そこに旧ユーゴ諸国やアルバニアで70年代から80年代にかけて製造されたライフルなどが大量に流れ込み、銃などの密売が日常的に行われていると、複数のメディアは報じている。