ブリュッセルで連続爆発 後手に回ったベルギーのテロ対策
なぜ未然に防げなかったのか
また、長きに渡って異なる言語や文化をめぐって国内で対立が続いている、独特の国内事情 も理解しておくべきだろう。ベルギーは文化的に、北部のフラマン語圏と南部のワロン語圏に二分され、前者はオランダ文化圏で後者はフランス文化圏になる。首都ブリュッセルでは公用語としてフランス語とオランダ語の両方が使われ、交通標識なども複数の言葉で書かれたものが珍しくない。数字だけを見れば、ブリュッセル周辺ではフランス語を使う市民の数が圧倒的に多いものの、ブリュッセルは地理的に南部のフランス文化圏の最北端に位置しており、ブリュッセルから少し離れると完全なオランダ文化圏に入ってしまうのだ。 ベルギーでは2010年6月に行われた総選挙のあとで、フランス語圏とオランダ語圏の議員の間で対立が深刻化。2011年暮れまでの約1年半、内閣不在の状態が続くという異常事態も発生している。北部と南部における文化的な違いは前述したが、北部のオランダ語圏が経済的により恵まれているといいう背景もあり、イタリアの南北問題に似た事情も存在する。 そのため、文化的に一つになれないベルギーが(事実、ベルギーからの分離・独立を主張する地域もある)、国内政策で一枚岩の結束を誇れない事情も見え隠れする。ブリュッセル在住の42歳男性は22日、米バズフィード の取材に対し、「まともな政府が存在せず、二分した官僚政治が存在した結果、テロを防ぐことができなかった」と語っている。 ベルギー、とりわけブリュッセル近郊のモーレンベークが「テロネットワークの温床」と指摘されてきたものの、22日にブリュッセルで発生したテロを政府が未然に防げなかった原因は、政府内の文化的対立だけが問題ではない。より具体的な原因として、テロ対策に多くの人員や予算を投入してこなかったツケが回ってきたのだという厳しい指摘も存在する。ベルギーの諜報関係者は英ガーディアン紙の取材に対し、テロ組織と関係があるとみられる数千人の行動確認をわずか数百人の諜報部員で行っており、「あまりにも人員が少ないため、みんな疲弊している」と匿名でコメントしている。 2年前にブリュッセルで発生したユダヤ人博物館襲撃事件や昨年11月のパリ同時テロ事件では、それぞれの首謀者がモーレンベークを拠点にしており、厳しい姿勢での摘発を望む声は以前から存在したが、ベルギー政府が総額で約200億円規模のテロ対策用緊急予算について発表したのは先月のことであった。後手に回ったベルギー政府の対応にも批判が噴出するのは必至だ。 (ジャーナリスト・仲野博文)