ナゴルノ・カラバフ紛争の基層に根ざす「マトリョーシカ・ナショナリズム」
Viacheslav Lopatin / shutterstock.com
ウクライナとガザでの戦争に世界が振り回された2023年は、ナゴルノ・カラバフ紛争が大きく動いた年でもあった。アゼルバイジャン領内でアルメニア人が多数を占めるこの地域で、支配や帰属を巡って30年あまり続いてきたこの紛争は、前者2つの戦争の大立ち回りの陰であまり注目されないまま、アゼルバイジャンの軍事的勝利に終わった。 ナゴルノ・カラバフは、1990年代の第1次紛争で勝利したアルメニア側が長年、周辺も含めて広範囲に支配していた。アゼルバイジャンはその相当部分を、2020年の第2次紛争で取り戻し、残る領土の奪還を目指して23年9月に新たに攻撃を始めた。軍事面で劣勢のアルメニア側はわずか1日で降伏し、十数万人の住民のほぼ全員が難民となってアルメニア本土に逃れた。「民族浄化」と見なされかねない結末である。 この紛争では、これまでも虐殺や住民の追放、戦争犯罪行為がたびたび指摘されてきた。なぜ対立はこれほど激しくなったのか。両者が憎み合うのはなぜか。
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国末憲人