「暴力」と「死」でできた血塗られた歴史…二万年前の”壁画”が克明に映し出す人類の「残酷さ」
横たわる2人
この横たわる2人は、技を披露するアスリートではない。先史時代の性生活の様子を私たちに伝えてくれているわけでもない。実際、2人を痛々しいポーズにさせているのは、欲望でも意志でもない。 よく見ればわかるのだが、彼らの首が背後のロープで両足とつながっているのだ。ロープがピンと張り詰められているため、2人はそのうち力尽きて、息ができなくなるだろう。これは処刑の絵なのである。 この壁画は2万年前にシチリアの岩盤に刻み込まれたが、処刑自体の歴史はもっと古い。そう言うと、驚く人が多い。温厚でほぼ裸の人々が火で体を温め、煙草をくゆらせ、祖先の活躍を歌うリズムに身を委ねて、子供たちに善良な精霊がするいたずらの話を聞かせながら、ゆっくりと眠りにつく平穏なキャンプのような暮らしが、人類の自然な姿だと想像するからだ。 そのような情景も繰り広げられたと考えられるが、それは真実の半分でしかない。残りの半分は、血と引きちぎられた内臓、叫びとおびえ、暴力と死でできている。
ハンノ・ザウアー、長谷川 圭