なぜブルガリがグランツーリスモと組んだのか? マシンをデザインした当事者に意図を聞く【新型車デザイン探訪】
腕時計で知られるブルガリが昨年12月、1台のスポーツカーを発表した。ブルガリ・アルミニウム・ビジョングランツーリスモという名が示すように、お馴染みのグランツーリスモで走らせるためのバーチャルカーだ。デザインしたのは元ピニンファリーナのファビオ・フィリピーニ氏。インタビューすると、意外な事実が明らかになった。 【写真を見る】ブルガリとグランツーリスモのコラボで生まれた夢のスポーツカー。※本文中に画像が表示されない場合はこちらをクリック TEXT:千葉 匠(CHIBA Takumi) PHOTO:FABIO FILIPPINI/BVLGARI
ユニークな企画はデザイナーが縁結び
グランツーリスモ上であれば、現実に存在しないクルマも走らせることができる。そこに世界中の多くのメーカーが賛同し、これまで数々のバーチャルカーがデザインされてきた。 ゲーム用に作るのは3次元CGソフトによるデジタルモデルだが、同時に原寸大モックアップを制作・公開するのが通例。今回のブルガリも同様で、バルセロナで開催されたグランツーリスモの「ワールドファイナル2023」の場で、モックアップを披露している。 しかし、なぜブルガリがグランツーリスモなのか? 「実際のところ、このプロジェクトのきっかけを作ったのは私だった」とデザイナーのファビオが語る。「ブルガリのファブリツィオ・ボナマッサ・スティリアーニに電話して、ヴィジョングランツーリスモをやらないかと提案した」 ファビオはイタリアと日本のカーデザイン会社、VWグループ、ルノーを経て、2011年から6年間、ピニンファリーナでデザインディレクターを務めた。その後は自身のデザイン会社を設立し、東京を拠点に活動している。ちなみに筆者とは、彼が日本で働いていた1990年前後から旧知の仲。親しい間柄なので、本稿ではファビオとファーストネームで書かせていただく。 電話を受けたスティリアーニ氏も、元はカーデザイナーだ。98年にフィアットに入社。フィアットやアルファロメオのデザインに携わった後、2001年にブルガリに転職し、07年から腕時計のデザイン責任者を務めている。カーデザイナーたちの世界は狭い。同じイタリアとなればなおさらだ。ファビオはスティリアーニ氏と以前から面識があった。 ファビオは次に、ポリフォニー・デジタル(グランツーリスモの開発元)の山内一典代表にコンタクトしたという。彼はピニンファリーナ時代にフィッティパルディEF7をデザインしている。F1とインディ500をそれぞれ2度制覇したレジェンドのエマーソン・フィッティパルディが、生産化を目指して開発したスーパーカーがEF7。まずビジョングランツーリスモのバーチャルカーとしてデビューし、2017年のジュネーブショーで実車が発表された。 残念ながらEF7のプロジェクトは休止になったが、それを通じてファビオはポリフォニーの山内代表とも深く交流していた。こうしてファビオはブルガリとグランツーリスモを結び付けることに成功したのである。 「そこからだ。お互いに多くの共通点があり、補完し合える関係だと両社が気付いた。ブルガリとグランツーリスモが共同のブランドで限定モデルの腕時計を作り、そのデザインにインスパイアされたバーチャルカーをグランツーリスモで走らせたら、それはきっとユニークで驚くべきことになる、とね」