女性や子供を守るコンビニ、責務どこまで? 事件対応に批判も
全国のコンビニエンスストアで、女性や子供などの緊急的な駆け込みを受け入れる取り組みが行われている。約20年前に始まり、各地で減り続ける交番に代わる役割を果たしてきた一方、店員が人命にかかわる難しい判断を迫られるケースも起きている。コンビニはどこまで公的な機能を担うべきなのか――。大手3社を含む事業者と考えた。 「助けてください!」 2021年3月、まだ雪が残る北海道内のコンビニに、20代くらいの女性が泣きながら駆け込んできた。 足元は裸足で、Tシャツに短パン姿。事情を聞くと「知人男性に暴力を振るわれている」と言う。 店員はすぐに警察へ通報、女性をレジカウンター内に保護し、ジャンパーを着せた。女性の靴を持った男性が後を追ってきたが、警察の到着までその身を守った。 コンビニが24時間営業の特性を生かし、地域の安全・安心に寄与しようと取り組む「セーフティステーション(SS)活動」は、1990年代に一部地域で始まった。 2000年、警察庁は「効果的に地域安全活動の一翼を担うことができる」として、主要コンビニチェーン7社が加盟する日本フランチャイズチェーン協会(JFA)に協力を要請。05年10月に全国展開が始まった。 主な活動は、女性・子供らの駆け込み対応▽認知症が疑われる高齢者の保護▽青少年非行化の防止――など約10項目。現在の実施店舗数は5万6719店(23年12月末)で、各店が社会貢献活動の一環として自主的に取り組んでいる。 ◇拉致監禁事件で救われた母子も 取り組みの背景には、交番と駐在所の減少がある。 全国の交番は約20年前の6455カ所(05年)から6215カ所(24年)に、駐在所も7333カ所(05年)から5923カ所(24年)に減っている。 一方、コンビニは05年の4万2643店から、5万7019店(23年)へ増加。警察庁生活安全企画課は、SS活動実施店を「重要な役割を担う、地域安全の要」と位置づける。 JFAの調査によると、23年に女性の駆け込みに対応した店舗数は、少なくとも4448店(延べ6681回)。時間別では午後11時~午前5時台が最も多く、駆け込み理由は、ストーカー(つきまとい)▽知らない人からの声かけ▽ドメスティックバイオレンス(DV)を含む暴力――が上位を占めた。 父親から虐待を受けた中学1年生の少女や、仕事紹介の面談中に性暴力を受けそうになった女性が逃げ込んで助かった事例など、重大事案も少なくない。中には、会計時に「警察に電話してください」と書いたメモを店員に手渡し、拉致監禁事件から救出された母子のケースもあった。 一方、課題も浮かび上がっている。 今年4月、北海道旭川市で女子高校生(17)がつり橋から川に落とされて殺害された事件では、事件前、容疑者の女性(22)に車で監禁されていた女子高校生が、コンビニに駆け込んで店員に助けを求めた。 だが、店内に乗り込んできた容疑者が「この子はおかしくなっているので、取り合わなくていい」などと言い張り、保護や通報にはつながらなかった。 このニュースが6月に報じられると、ネット交流サービス(SNS)などでは「ここで通報していたら助かったかもしれない」との反応が相次いだ。 他方、「犯人たちの反発を覚悟してまで積極的に助けに入る義務が、店員の時給に含まれているのか?」「店員はアルバイトで、学生や外国人、高齢者などさまざまな人がいるから、いつも万全の対応をするのは難しい」などと店側の対応を擁護する声も続出した。 ◇「一番大事なのは……」 店側はどう対処すればいいのか。 毎日新聞は10月、セブン―イレブン、ローソン、ファミリーマート、北海道を中心に展開するセイコーマートの本部4社に、書面で現状や課題を尋ねた。 駆け込み対応マニュアルや通報基準の有無については、4社とも独自には設けていないと回答。JFAが定める「身の危険を感じた女性が助けを求めて駆け込んできた場合は、店内で適切に保護し、速やかに警察に通報する」との手順にのっとって、可能な範囲で対応しているとした。 適切な対応のための工夫としてローソンは「有事に全従業員が対応できるよう、緊急連絡先一覧を店舗事務所内に掲出し、ワンタッチの警備通報システムを導入している」と答えた。 旭川事件のように加害者側が店員の介入を阻んでくるケースに対し、具体策を講じている社はなかったが、セコマは今年6月、全店舗に対し、旭川事件の経緯を含め、改めて駆け込み対応について周知。ほか3社も10月に全店へ啓発したという。 あるコンビニ会社幹部は「マニュアルや規定を増やしても意味がないのでは」との見方を示す。その上で「(旭川事件で)店員が通報しなかった理由は、ふざけているように見えたのか、通常業務に追われていたのか、面倒だと思ったのか、別の事情があったのか分からないが、やはり一番大事なのは店員の問題意識だろう」と、周知徹底・教育の重要性を説いた。 ◇専門家「警察がリーダーシップを」 また、4社の回答には、自治体や警察、地域住民との連携を求める意見も複数みられた。特に、警察署が店舗ごとに担当警察官を決めて定期的に立ち寄らせる「コンビニサポートポリス制度」の拡充に期待する声があった。 警察庁によると今年8月末現在、島根、東京、香川など27都府県警、351署が同制度を導入している。警察官とコンビニ従業員が顔の分かる良好な関係を築くことで、早期連携が必要な事案で着実な成果が上がっているという。 このため、同庁は9月、各道府県警本部長ら宛ての通達で、将来的には全署での導入を目指し、推進するよう求めた。 コンビニ業界に詳しい法政大学大学院の並木雄二教授(流通学)は「適切な判断に必要な『感度』は日常生活で培われるものなので店員個人の判断に委ねるのは酷だ。客商売という側面からも店員の介入には限界があり、コンビニが防犯・治安機能を担うのはあくまで副次的なものでなければならない」と指摘する。 並木教授は、緊急時に防犯カメラ映像と店内の音声を警察がリアルタイムで共有するなど、新たな仕組みを検討していく必要性に言及し、「警察がリーダーシップをとって、民間が協力しないと治安は良くならない。人口減少が進む日本でどう地域の安全を維持していくのか、国全体で真剣に考え直す必要がある」と話した。【伊藤遥】