田中希実がトラック種目の先に見据えるマラソン出場。父と積み上げた逆算の発想「まだマラソンをやるのは早い」
陸上・田中希実は、800mから5000mまで多種目に挑戦し、年間を通して多くの試合に出場。昨年4月からはプロに転向し、国内外のレースで新記録を打ち立ててきた。伸びやかなスタート、ダイナミックな走り、勝負を仕掛けるギアチェンジ、力強いラストスパート。さらなる飛躍を予感させるその走りは、過去のレースで経験した悔しさも糧となったという。今後は10000mやマラソンでも世界への挑戦を視野に入れている。そんな24歳のトップランナーが秘めた可能性を、コーチでもある父・健智さんの言葉から紐解いていく。 (インタビュー・構成=松原渓[REAL SPORTS編集部]、写真=アフロ、本文写真提供=田中家)
多種目に出ることで「すべてがつながり合う」ように
――健智さんが本格的に希実さんのコーチをされるようになったのは大学1年生の時だったそうですが、それまではどのように見守っていたのですか? 田中:中学と高校では顧問の先生に任せながら、毎年、夏休みの1週間ぐらいはこちらに預けていただいて、岐阜県の御嶽山で合宿を行い、私がトレーニングを見ていました。それ以外の部分では、本人が悩んでいることや、相談してきたことに対してアドバイスはしていたのですが、そこまで踏み込んだところまで言うことはなかったです。 ――中学生の頃はそこまでスピードのある選手ではなかったそうですが、コーチになって他種目に挑戦してこられた中で、トレーニングではどのようなことを大切にしてこられたのですか? 田中:本格的にコーチをするようになってからは、「自分ならこうやるだろうな」という感覚を大切にしてきました。複数種目にエントリーしたり、他の選手に比べると一年を通してレースに出続けていて、マラソンで言えば川内優輝選手のようなスタイルに近いと思います。ただ、闇雲にいろいろな種目に出場しているわけではなく、すべてのことがつながり合うように練習を考えています。 ――希実さんは1000m、1500m、3000m、5000mで日本新記録を更新してきましたが、800mも含めて種目ごとにギアの上げ方やペースも違う中で、それぞれの感覚がつながり合うような感じでしょうか。 田中:そうです。例えば、「なんでこんなにレースに出ているんだろう?」とか、「なんで、800mを走らないといけないんだろう?」などと疑問に思ってしまったら、つながらないので練習の意味がなくなってしまいます。そういう一つ一つの練習が、世界陸上のような本番につながっていくことを希実自身が理解して取り組んでいます。 以前は他の選手にも同じようなスタイルで指導をしたことがありますが、指導者としての力量不足から、その選手がレースに出過ぎて疲れてしまったり、練習の意図が伝わらず、「なんでこんなことをやっているんだろう?」と練習でも腑に落ちないことがあり、難しさを感じました。その感覚が理解できるのは、親子だからという部分もあると思いますが、自分が最終的にどんな目標を持って、どうなりたいかということが明確だからこそ、日々の練習やレースにも集中できているのかな、と思っています。