「お金を増やすことだけを目的とした投資」に抜け落ちた“重要な視点”
新NISA制度が始まり、投資への関心が高まっています。「とりあえずNISA」と、投資を始めた方もいるかもしれません。しかし、そもそも「投資家になる」とは何を意味するか、考えることはあまりないのではないでしょうか。鎌倉投信代表の鎌田恭幸氏の新著『社会をよくする投資入門』より一部抜粋・編集してお届けします。 【写真】役所があえて教えない、申請すれば「もらえるお金・戻ってくるお金」
投資家になるとはどういうことか
「投資家になることの意味」や「リターンとは何か」を考えてみよう。単にお金を増やすことだけを目的とした投資でよいのか、僕がモヤモヤしている理由の説明でもある。
投資家になってみる
投資家とは、事業を行うためにお金を必要とする人や会社に出資をして、その事業の成功に貢献しようとする人のことをいう(単に、これから値上がりしそうなものや値上がりするタイミングを巧みに見つけ、自分のお金を増やすことだけを考えている人とは異なる。それは投資家ではなく「投機家」だ)。 また、消費と投資の違いでいえば、消費が何かを手に入れるために「いま」お金を使うのに対して、投資はいま使わずに「将来に向けて」お金を増やすためのものだ。さらには、本来の投資には、未来に向けて新たな価値を社会のなかに生み出そうとする思いも込められている。 ここで、あなたが投資家になることを想像してみよう。 あなたは、親しい友人から、これから立ち上げる会社への出資の話を持ち掛けられたとする。 以前アパレルの会社に勤めていた友人は、大量生産された衣類が店頭に山積みされ、季節を過ぎて売れ残った衣類が大量に廃棄されている現状を何とか変えたいと考えていた。アパレル業界における大量生産、大量廃棄は、大きな社会課題・環境問題の1つだ。こうした社会課題を解決しながら、同時に事業としても収益を上げることができれば人と自然が共存する持続可能な社会の実現にもつながる。
あなたが投資家になった瞬間
そこで友人は、希少な国産のオーガニックコットンから作るオーダーメイドのシャツをブランド化できないかと考えたのだ。大量の農薬と大量の水を使用して栽培され、遠方から輸入されてくる綿を使うのではなく、耕作放棄地も活用しながら無農薬で綿を栽培する農家を増やし、地域創生にも貢献するのだという。 しかし、この事業を立ち上げるには手持ちの資金だけではまかないきれない。そこで、友人はこの事業の社会的意義と可能性をあなたに熱心に語り、会社が発行する株式と引き換えに100万円の投資を依頼してきたのだ。 「株式」とは会社への出資を証する券面だ。株式を保有することによって出資額に応じて会社の資産を所有する権利や利益の分配を受ける権利、重要な経営方針を決める際の決議に加わる権利を得ることができる。会社は、そうした権利を付与する代わりに投資家に資金を募る(図4)。 そして株式を所有する投資家が「株主」だ。それぞれの立場をまとめる。 会社 出資金を会社経営のために自由に使うことができる。お金を返さなくてよい会社というのが借入との大きな違いだ。 株主 (1) 株主総会における決議など、会社の経営方針に関わる権利を得る。 (2) 配当金など利益の分配を得ることができる。配当金は現金で、実際にあなたの銀行口座に振り込まれる(*正式には、「配当金領収証方式」や 証券口座で受けとる 「株式数比例配分方式」などの選択肢がある)。 友人の会社の事業が失敗したら出資したお金がゼロになるかもしれないと知りながらも、あなたはこの事業の社会的意義に共感した。友人の経営者としての手腕を信じ、将来お金が増えることも期待して100万円の出資を決めた。 これは、会社からすると株式を付与することによる資金調達であり、あなたから見れば株式の取得という名の投資だ。これが「株式投資」だ。あなたが投資家になった瞬間である。