通常国会「閉幕」 問われた民主主義のあり方と新たな動き
1月22日から始まった通常国会が20日、事実上幕を閉じました。半年にわたる今国会は、「森友学園」「加計学園」をめぐる問題や、トランプ米大統領と北朝鮮の金正恩委員長による米朝首脳会談、大阪北部地震に西日本豪雨と、国内外でさまざまな出来事が期間中にありました。何が問われた国会だったのか。政治学者の内山融・東京大学大学院教授に振り返ってもらいました。
森友・加計問題に揺れた安倍内閣
7月22日を前に通常国会が事実上閉会した。この国会で最大の焦点だったのは、何といっても森友・加計学園問題であろう。森友学園問題では3月に財務省の決裁文書改ざんが発覚した。国会議員に開示された文書では、オリジナルの文書にあった同学園との土地取引が「特例的な内容」だとした部分や、首相夫人の安倍昭恵氏に関する記述が削除されていた。そのため、同学園との土地取引が特例的に優遇された背景には昭恵氏の関与があったのではないかと取りざたされた。 加計学園問題では5月に柳瀬唯夫元首相秘書官の参考人招致が行われ、柳瀬氏は加計学園の関係者と首相官邸で会っていたことを認めた。国家戦略特区の下で、同学園グループ岡山理科大学の獣医学部設置が認可されたのは安倍首相の影響力によるものではないかとの疑いが広まった。 この森友・加計学園で安倍政権は守勢に立つこととなり、内閣支持率も大幅に下がった。例えばNHKの世論調査では、本年3月には44%だった支持率が4月には38%となった。4月の不支持率は45%となり(3月は38%)、支持率を上回った。それまでは今年9月の自民党総裁選では安倍首相の3選はほぼ確実だと考えられていたのだが、事態は流動的になっていった。 しかしこの状態はそう長くは続かなかった。財務省の文書改ざんは理財局長以下官僚の責任問題とされ、麻生財務大臣の引責辞任などに及ぶことはなかった。加計問題についても、獣医学部認可への安倍首相の関与は否定され続けた。野党が追及の決め手を欠く中、6月に新潟県知事選挙が行われた。この選挙で与党候補が勝利したため、流れが変わった。それまで守勢だった政権・与党が強気に出るようになり、統合型リゾート(IR)法案(いわゆるカジノ法案)、参院選挙制度改革法案、働き方改革関連法案など野党が反対する法案を押し進め始めた。 内閣支持率も反転上昇してきた。NHKの世論調査では7月の支持率は44%、不支持率は39%と再び逆転した。重要法案も次々成立した。6月末には、政権が今国会の最重要法案と位置付けていた働き方改革関連法が成立している。これは、残業時間の上限規制や同一労働同一賃金を規定する一方で、一定の労働者を労働時間規制から外す高度プロフェッショナル制度を導入するものである。7月中旬には、参議院の定数6増などを柱とする参院選挙制度改革法が成立した。会期末ぎりぎりにIR法も成立した。こうした流れを受け、安倍総裁3選の見込みも再び高まってきた。 その一方で、野党陣営は相変わらず分断状態が続いている。5月には希望の党と民進党の議員が合流して国民民主党が結成され、参院で野党第1党となった。衆院での野党第1党は立憲民主党のままだが、この両党の間の路線の違いが際立った。政権との対決姿勢を強調し審議拒否路線をとる立憲に対して、国民は審議を進める路線であった。たとえば、働き方改革関連法案では、立憲などが提出した参院厚生労働委員長解任決議に国民が乗らなかった。IR法案でも、立憲は参院内閣委員会での採決に反対した一方、国民は付帯決議を付けることを条件に採決に応じた。 国民民主党の結成にもかかわらず、「一強」政権に対して野党が分断され「多弱」に陥るという構図は大きく変わっていない。むしろ、衆参の野党第1党がねじれることによってその構図は悪化した観もある。政治や行政への不信が少なからず残る中でも安倍政権が支持を維持しているのは、このような野党の分断状況が大きな要因である。現政権に代わる有効な選択肢が不足していれば、有権者は現政権を支持せざるを得ない。