通常国会「閉幕」 問われた民主主義のあり方と新たな動き
日本の民主主義が立つ現在地
今国会ではさまざまな争点があったが、大きな主題として問われたのは民主主義のあり方ではないか。 森友・加計学園問題は、民主主義の健全性を保つ上で不可欠な行政の中立性に疑念を生じさせることとなった。本来、行政には、国民の意思を受けて決定された政策を中立に執行することが期待されている。法律などによって一定の基準が設定されたら、その基準を誰にも公正に適用しなくてはならない。しかし今回は、両学園の中心人物が政権中枢と個人的な関係を持っていたために、土地取引や学部認可で異例の優遇を受けたのではないかと疑われている。もし権力者が自分に近い一部の人々を優遇したのであれば、それは「政治主導」などではなく、単なるクローニズム(縁故主義)である。 決裁文書改ざん問題では、行政文書の適正な管理がなされておらず、国民や国会への情報公開も十分でないことが明らかになった。政府の意思決定過程を明らかにする文書の適正管理や情報公開は、民主主義を支える重要なインフラである。そうしたインフラを大事にする感覚が欠如しているのは日本の民主主義の底の浅さを物語っている、といわれたら否定できるだろうか。 参院選挙制度改革では、言論の府であるはずの国会で真剣な議論が欠如していたといわざるを得ない。この改革では、1票の格差を是正するため埼玉選挙区の定数を2増やしたことに加えて、比例代表も4増やして100とした。さらに比例代表には「特定枠」を新設した。参院の比例代表は衆院と異なり、個人得票の多かった候補者が順に当選する非拘束名簿式だが、この特定枠には各党が当選順位をあらかじめ定める拘束名簿式を採用する。 選挙制度は民主主義の根幹をなすものであり、その設計には、十分な理念に基づいた熟議が必要とされる。しかしこの特定枠の導入には一貫した理念が感じられない。合区となった県(鳥取と島根、徳島と高知)の候補者を救済する目的にすぎないのではないかと指摘されている。審議時間も、参院で6時間強、衆院では約3時間ときわめて短い。一般的に重要法案では衆院で20時間程度の審議時間が必要だとされていることと比べてほしい。 政策決定が十分なデータに根拠づけられることも重要である。当初準備されていた働き方改革法案には裁量労働制の適用拡大も含まれていたが、政府は調査データに基づき、裁量労働制で働く人の方が一般の労働者よりも労働時間が短いとしていた。しかし、本来比較できないデータを比較するという基本的な間違いを犯していたことが明らかになり、国会提出された法案からは裁量労働制に関する部分は落とされることとなった。 このように今通常国会では、民主主義の基本的要素が軽視されていることをうかがわせる出来事が多発した。もっともこれは日本だけの現象ではない。米国のトランプ大統領が典型だが、他者の視点を取り入れて熟議する、事実を直視する、専門家の助言に耳を傾けるなど、民主主義の土台をなす態度が世界中で失われつつあるようだ。あらためて警鐘を鳴らしたい。