38歳首相率いるタイ新政権、不安な船出 タクシン派と親軍派対立、火だねくすぶる
タイで2024年9月、タクシン元首相の次女ペートンタン氏(38)率いる新政権が発足した。セター前首相の8月の失職を受けた緊急登板で、王室や国軍と近い保守勢力と対立の火だねがくすぶる。タクシン派「タイ貢献党」が軸となる連立は維持したが、陸軍出身の実力者を排除して政権基盤に亀裂が入り、不安な船出となった。(共同通信バンコク支局=伊藤元輝) ▽想定外 「当初はこの役割を引き受けると想定していなかった」。2024年8月18日の首相就任式後、ペートンタン氏は記者団に打ち明けた。憲法裁判所が8月14日、前首相に予想外の解職を命令。理由は閣僚人事の倫理規定違反だが、タクシン派の政権に不満を持つ保守勢力の意向が働いたとされる。 後任は前回総選挙時に党が登録した首相候補から選ぶ必要があり、ペートンタン氏に白羽の矢が立った。2023年10月に党首に就任したばかりで、政治経験は1年半程度。将来的な首相候補だったが、タクシン氏は温存を希望していたとされる。
▽排除 ペートンタン政権では、保守寄りの「タイの誇り党」や親軍派「タイ団結国家建設党」などが前政権と同様に連立に入り、主要閣僚も留任した。人気の最大野党「国民党(旧前進党)」に対峙するには連立の大枠維持以外に選択肢はなかった。 ただ、親軍派「国民国家の力党」との関係には切り込んだ。国民国家の力党は組閣過程で2勢力に分裂。新政権は陸軍出身のプラウィット元副首相らを連立から排除し、残る勢力のみと協力を維持した。 タイメディアなどによると、プラウィット氏はセター氏解職を求める訴えを起こした保守系の元上院議員らとつながりがある。ペートンタン氏の下院での首相指名選にプラウィット氏は欠席。排除はタクシン派の意趣返しとみられている。 ▽不満 ペートンタン氏は政権発足後「約3年の任期を全うしたい」と訴えた。ただ保守勢力に近い憲法裁が絡み、政界の混乱を予想する声は少なくない。2023年8月に約15年間の国外逃亡から帰国したタクシン氏が政権への影響力を強める現状に、保守勢力の不満は高まっている。帰国時は「政治に関わらない」と公言していたからだ。
政党の役職に就かないタクシン氏の政権関与は違法だとの訴えは、既に選挙管理委員会に届いている。タイ国立開発行政研究院(NIDA)のピチャイ准教授は「タクシン氏が党を指揮しているのは明白で、将来的にタイ貢献党の解党などの司法判断が下る可能性はある」と指摘した。