「なーんだ、そうだったのか!」…高校物理に挫折してしまった人必見、物理挫折者のための超入門
物理に挫折したあなたに――。 読み物形式で、納得! 感動! 興奮! あきらめるのはまだ早い。 大好評につき5刷となった『学び直し高校物理』では、高校物理の教科書に登場するお馴染みのテーマを題材に、物理法則が導き出された「理由」を考えていきます。 【写真】物理が「スラスラわかる天才」と「チンプンカンプンの凡人」とは何が違うのか ※本記事は田口善弘『学び直し高校物理 挫折者のための超入門』から抜粋・編集したものです。
はじめに
『学び直し高校物理』は、高校物理の挫折者や、履修はしなかったが、あらためて学び直したいという初学者を想定して書かれたものだ。 基本コンセプトは天下りにしない、ということに尽きる。高校の物理の教科書はややもすると「世界はこうなっている」という法則や公式が「どん!」と与えられて「信じる者は救われる」とばかりに話が進んでいく。 疑問を提示すると「じゃあ、実験で実際にそうなっていることを確認しなさい」といなされてしまう。しかし、実際に実験で確認できたからといって納得感があるかというとそれは別問題だろう。 物理学者を主人公とするとある有名な連続TVドラマの主人公の口癖は「すべての現象には必ず理由がある」だ。だとしたら、物理学者がそういう形(法則や公式)で世界を記述しようと「思った」ことにも理由があるはずだ。 何かとてもおいしい料理を作るレシピがあったとしても、ひとつひとつの手順に納得感がなければ釈然としないだろう。固い食材を煮るときは長めに火を通し、煮崩れしやすい食材は中火や弱火で短時間にとどめる。おいしい料理を作ることができるレシピのひとつひとつの手順には合理的な理由があるはずであり、それが納得できなければレシピを理解したとはいえない。 同じように自然界を記述する公式や法則についてもなぜ、導き出されたかという理由があるはずだ。「こうなりました。昔の人が考えた結果です!」じゃなく、「改めて一から考えたら今の公式や法則って自然な考え方ですよね」と納得できたら、物理に対する苦手意識が払拭できるのではないだろうか。 「なぜそのように考えるか?」の「理由」を説明することができれば、よいレシピを学ぶことで自作の料理を考案できるように、目の前の現実に対して「自分で考えて答えを出す」ことができるようになるかもしれない。 『学び直し高校物理』では、高校物理の教科書に登場するお馴染みのテーマを題材に、物理法則が導き出された「理由」を読者とともに考えていく。 このような目的に即して考えた場合、高校で用いられる物理の分類、「力学」「電磁気学」「熱力学」「波動」「その他現代物理学」(量子力学や相対論)といったカテゴリは必ずしも最適とはいえないのだが、そこを換骨奪胎してしまうと高校の教科書の何をどう学び直したのかわからなくなってしまうのでそこまでは踏み込まなかった。 本編は以下のような流れで学び直しを進めていく。 「力学編」では、すべての基本である質量の説明から始めて、等速直線運動、斜方投射から揚力へと進んだあと、運動量やエネルギーの保存について論じる。 次に、「電磁気学編」では、電荷、静電気力、電場、電力、ローレンツ力を説明して(その中で磁場の説明も行う)、電磁波の説明で電磁気学編を終える。 「熱力学編」では、熱力学のいろいろな法則、第一・第二法則、熱機関と冷却器を論じる。 そして「波動編」で、波についての一般論、ドップラー効果、屈折、偏光、反射を説明する。 最後に「原子・分子編」で、駆け足になるが量子力学にも触れる。 こんなふうに書くと、ずいぶんと堅苦しい本と思われるかもしれないが、教科書というよりは楽しんで読めるように、たとえ話や歴史的なエピソードを交えて、ずいぶんとかみ砕いて解説した。高校物理の教科書にお馴染みの数式や無味乾燥な記述も極力控えた。 前述したように本書が想定しているのは、高校物理の挫折者や物理に対する憧憬を捨てきれない文系物理ファン、そして高校物理の無味乾燥で天下り的な記述に違和感を覚えている読者である。数式や計算式などをがっつり盛り込んだ本格的な高校物理の解説書を期待される方には、「思っていたのと違う」となってしまうので、別の成書をご覧になることをお勧めしたい。 さて、最後に僕が読者の皆さんに(勝手に)期待していることを述べて「はじめに」の結びとしたいと思う。日本物理学会は、毎年会員である物理学者がみずからの研究をお互いに開陳しあう「年次大会」という研究発表会を開催している。 毎回、何千人もの日本中の物理学者が一堂に会し、丁々発止のやりとりを展開するのが通例となっている。物理学会はこの年会の一画に中高生(高校生が中心)が物理学に関するみずからの研究を年会に参加した物理学者の前で発表する「Jr.セッション」なるものを2005年から継続的に開催している。 筆者は発足当時から提出されたレポートの採点や、レポートで選抜された中高生の「Jr.セッション」での発表の評価に関わってきた。もちろん、中高生は難しい大学の物理学は学んでいないから、年会で物理学者が発表するような内容を発表できるわけではない。 それでも、往々にして物理学者も感心するような意欲的な発表をしてくれる。高校までの物理の範囲だって、ちゃんとわかればかなり難しいことを議論することが可能になる。現役の中高生でさえそうなのだから、この本で高校物理を学び直したれっきとした大人の皆さんならきっと、「Jr.セッション」に参加する中高生にもひけをとらない立派な研究発表ができるレベルになると筆者は信じている。
田口 善弘(中央大学理工学部教授)