「和歌の枕詞」と「現代の最新技術」…その「意外すぎる共通点」
「和歌」と聞くと、どことなく自分と縁遠い存在だと感じてしまう人もいるかもしれません。 【漫画】床上手な江戸・吉原の遊女たち…精力増強のために食べていた「意外なモノ」 しかし、和歌はミュージカルにおける歌のような存在。何度か読み、うたってみて、和歌を「体に染み込ませ」ていくと、それまで無味乾燥だと感じていた古典文学が、彩り豊かなキラキラとした世界に変わりうる……能楽師の安田登氏はそんなふうに言います。 安田氏の新著『「うた」で読む日本のすごい古典』から、そんな「和歌のマジック」についてご紹介していきます(第21回)。 【前回の記事】「民俗学者・折口信夫が解き明かした…バーチャルな世界を立ち上がらせる「枕詞の秘密」」では、折口信夫が和歌の手法の一つである「枕詞」をどのように見ていたかを紹介しました。そこでは、枕詞がなにか古代の祭儀のイメージを呼び起こす呪術的な性質を持っていることが論じられましたが、以下では、引き続きその「呪術性」について解説していきます。 ちなみに冒頭に出てくる「エピテトン」とは西洋の枕詞のこと、「興」とは東洋の枕詞のことです。 *
舞台上で繰り広げられる呪術
エピテトンも「興」もそして枕詞も、それを謡うことによって古代の祭儀を呼び起こす呪術的な性質がありました。 呪術というと何となく怪しいのですが、これに近いことは今でも舞台上でしています。舞台の上で枕詞を謡うことによって根幹語が出現するという話を最初に書きました。呪術というと怪しくなりますが、VRやARなどのようなXR体験を脳内で行っているともいえます。 舞台上で「久方の」と謡う。するとそこに「空」や、そらに浮かぶ「月」や「天女」などが出現する。その中から、たとえば「天女」をバーチャルな手でつかんで自分の中に入れる。そうすると「天つ少女の羽衣なれや」という謡が出てくる。そのようなことを舞台上でしています。 私はこれを「脳内AR」と呼んでいます。「AR」とは「Augmented Reality」の略で「拡張現実」と訳されます。現実の風景の上にバーチャルなものを重ねて見るような技術をこう言います。日本人は、これをスマホやヘッドマウントディスプレイなどを使わずに脳内ですることが得意でした。