イーロン・マスク氏、旧ソ連想起の「偽ハリス氏」をX投稿…米大統領選の偽情報対策は後退の様相
【ワシントン=冨山優介】最終盤となった米大統領選では規制が不十分なため、生成AI(人工知能)などを用いた選挙関連の偽情報拡散が横行してきた。多くの有権者が誤った情報に基づいて投票すれば、選挙結果に民意が適切に反映されず、民主主義の根幹が揺らぎかねない。情報インフラ(社会基盤)となっているSNSの運営企業も責任を果たしておらず、連邦政府の規制導入は急務だ。 【写真】マスク氏が投稿した赤い制服姿のハリス氏に見える女性
「カマラは初日から共産主義の独裁者になることを誓う」。共和党候補のトランプ前大統領を支持する実業家イーロン・マスク氏は9月、民主党候補のカマラ・ハリス副大統領に見える女性が赤い制服を着た偽画像をX(旧ツイッター)に投稿した。旧ソ連国旗にある「鎌とつち」を帽子にあしらい、共産主義を想起させる。画像はAIで生成されたとみられる。
マスク氏はXのオーナーだが、Xでは、公共の問題に関わり混乱を引き起こすような合成画像は削除対象になると定めている。米メディアは、マスク氏の投稿がXのルールに違反していると批判した。
2020年の前回大統領選でもSNS上で拡散した偽情報が問題視された。21年1月に連邦議会占拠事件が起きると、扇動したと疑われたトランプ氏はツイッター(当時)などのSNSを凍結された。
表現の自由を主張するマスク氏が22年にツイッターを買収して以降、偽情報の監視機能が弱まっていると指摘される。米紙ニューヨーク・タイムズは10月、「選挙が迫る中、偽情報(を巡る状況)はかつてないほど悪化している」と報じており、前回選よりも偽情報対策は後退しているとの懸念は強い。
米コロラド大のビベック・クリシュナマーシー准教授は「各州の法律は偽情報を抑える効果が弱く、連邦政府全体で統一的な規制を早急に導入する必要がある」と指摘する。連邦政府の規制は検討が進められているが、米国では合衆国憲法修正第1条で表現の自由を広く認めている。どこまで実効性を持った規制にできるかが焦点となる。